第2話 20×0年。一月一日。武国、湖西市。

 PCを立ち上げてグループチャットを開いたリンは、そのアドレスが消えているのに気がついた。

 個別の連絡は取れるが、複数での連絡は取れない。


 当局の検閲が入ったのだろうと思うが、その理由が分からない。


 リンは漠とした不安を覚えながらも、ニュースサイトを巡回した。そこで気になる記事を一つ見つける。


「海鮮卸売市場が閉鎖したのか……」


 湖西の南にある海鮮卸売市場は国内でも大規模の市場だ。取り扱っているのは海鮮だけではなく、野生動物も多い。蛇や蝙蝠など、昔ながらの生き物も多く取引されている。


 先日診たSARS疑いの患者七人が、この海鮮市場で勤務している労働者たちだった。

 やはりSARSが再流行しているのだろう。


 本来であればすぐにそれを公表して防疫に努めるべきだが、責任を問われるであろう保健当局の腰は重い。

 おそらく国の指導部に伝わる前に鎮静化させてしまえばいいと考えているのだろう。


 SARSは重症化した患者が強い感染力を持つ。ならば、重症の患者だけを注意深くコントロールすれば良い。


 リンが現在受け持っている患者に、重症化した肺炎患者はいない。

 まだ再流行と呼べるほどの患者数にはなっていないのだろう。

 SARSを一度封じこめたのだから、再び封じこめる事はそれほど難しくないに違いない。


 リンは海鮮卸売市場閉鎖のニュースを伝えているページを閉じると、すぐに次のニュースをチェックしていった。





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