第24話 再開と災難
「ねーねー、
「あれって……」
宇宙船のパイロットからの想定外の絡みに、明星……宇宙の王子はひとしきり困惑する。
そんなことには構わず、言葉の発信者はキラキラした目で彼の返答を待っていた。
彼女の名はパーシー。この宇宙船、スペース・ハーミット号の専属パイロットだ。
小さな体格に、不釣り合いなほど大きなカーゴジャケット。さらさらストレートの髪に、桃色の色鮮やかなヘッドバンドが愛らしい。
ハイジャック事件が片付き、ナナセと明星は晴れて正式にこの船の客となった。冥王星までの後払い乗船も認められたし、ナナセに至っては船のボディーガードという仕事までもらっている。
そこまでしてくれたこの船の乗組員達を信頼して、明星は特に素性を隠してはいない。どうやら船に乗り込んだときからバレていたようだし、この顔が丸出しではどんな宇宙船に乗っていようが隠し通せるはずもない。
この船……スペース・ハーミット号。人呼んで『宇宙のヤドカリ号』は、名前の通りヤドカリをモデルにした中型客船だ。
ヤドカリの宿の部分を巨大な格納スペースとして背負い、そこから操縦席を含む機関部が突き出す、まさにヤドカリのような船だ。
かつては
治安の良くなった今は一惑星24時間滞在の観光ツアーを組んでいるというわけだ。
そしてこの船の船員は、船長を除けば四人。いや、四人と一匹。
まばら髭……もといこの船の客室管理担当のアウル。
船で唯一の戦闘員を務めているドレッドヘアの女、ルミナス・ブルー。
そしてパイロットのパーシーと、整備士のエリ。エリを補助する整備犬のワンダフル。
何とも頼もしいようでそうでもなさそうなメンバーだ。そもそもこの規模の客船に乗組員がこれだけとは、やっぱりこの船、経済的に逼迫しているらしい。
いまだに少し船への信頼は揺らいでいるものの、乗ってしまった以上は仕方がない。
冥王星までたどり着ければ、もう明星は何でも良かった。
「ああ、そうだ。『あれ』だよ」
「やっぱり~?」
明星の投げ槍な回答に、パイロットは満足げに微笑んだ。
「ちょっとアウル! あたしの酒瓶どこ行ったか知らない?」
「知るか! 酒瓶が歩いてどっかに行ったんじゃないか」
「そんなわけないでしょ! あ、思い出した。全部飲んで捨てたんだった」
スペース・ハーミット号の客員用心棒になって数時間。
廊下を駆けていく乗組員達の気の抜けるようなやり取りを眺めながら、ナナセはふと疑問に思っていたことをエリに尋ねた。
「そういえば船長さんは? 一緒に船に乗ってるんでしょう? 客員と言えど一応この船の乗組員にしてもらったんだし、ご挨拶しないと」
「そ、それが……」
エリは何故か言いよどむ。
ん? とナナセが首を傾げると、言いにくそうにしながらも答えてくれた。
「船長は滅多に人前に姿を現さないんだ。食事も部屋で一人でとる。言いたいことは全部ワンダフルだよりだ」
「へえ。シャイな人なんですね……」
その場はそれで納得したが、何だか不思議な船長だ。
伝言はすべてワンダフルに託し、自身は部屋に籠りきりなんて。
「さ、もうそろそろ火星に着くぜ? 俺は整備に戻るから」
エリもエリで、そう言うとさっさと去って行ってしまった。
今のは乗組員にとっても相当答えにくい質問だったらしい。
何だろう。そんなに取っ付きにくい船長なのだろうか。
それはそうと、エリの言う通りそろそろ次の目的地に備えないと。
次の目的地は火星。ここにも24時間滞在する。
ナナセにとってはまたしても未知の惑星だ。今度は何が待ち受けているのか、ボディーガードは溢れるワクワクを隠せない。
そしてそのワクワク状態のまま明星に火星の観光に行くかどうか尋ねると、
「俺は行かない。あんただけで楽しんできてくれ」
非情な答えが返ってきた。
「……」
「何なんだ、そのものすごく葛藤してる顔は」
「ボディーガード……あたしはボディーガード……」
「そ、そんな四六時中俺にくっついてなきゃいけないわけじゃないだろ? この船にいれば安全だから」
「ハイジャック……」
「早々起きねえよ」
なおもボディーガード・ナナセが自身の仕事と未知への好奇心を天秤にかけて苦悩と葛藤に沈み込んだ表情で口をパクパクさせていると、アイドルは「はああ」と一つため息をついた。
「俺ももう迂闊な行動はしないよ。自分の周りには十分気を付ける。……それに、火星は外の方が危ないんだ」
「え?」
会話ができたのはそこまでだった。
ドンッと、今までにない衝撃がナナセ達を襲った。
客室で謎の衝撃を食らい戸惑うナナセ達とは対照に、コックピットに集まった面々はその衝撃の元凶を冷静に観察していた。
操縦桿を強く握りながら、パーシーが呟く。
「相手がでか過ぎる。最初のは躱したけど、このままじゃもう一回トラクタービームの射程に入るよ」
コックピットの窓の外には、スペース・ハーミットを遥かに上回る超巨大な船が、いや、戦艦が速度を上げて近付いてきていた。
街一つ分ほどの規模を持った、鯨型の巨体。前方からでも何門か砲身がこちらに向いているのが確認できる。
先程の衝撃はあの船からトラクタービームを浴び、船内に引き込まれかけた故のものだ。
「どうする? あれくらいなら何回だって振り切れるけど」
言葉に闘志を漲らせる操縦士に、しかしルミナス・ブルーは首を横に振った。
「いや、もう躱さない方がいいわ。あんたの腕なら撒けるかも知れないけど、逃げたら後が大変よ」
パーシーは一瞬怪訝そうな顔をしたが、続くアウルの言葉に操縦桿から両手を離した。
「ありゃ銀河同盟軍の船だ」
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