第6話 天体観測

「あのさ、ステラ」


「え? なんだ、どうした、俺は今忙しいんだ。陰キャのお前とは違って俺には友達がいっぱいいるから連絡に時間がかかるんだ」


「それはただお前みたいなさらなる陰キャが群がってるだけの独自の研究機関だろう」


 こっちの声を独り言を扱うかのようにスルーして、彼は相手との通話を続ける。


「ん、いやだから本当なんだって!……うん。うん、じゃあよろしくな」


 ステラは、【説得完了!】みたいな顔でARモニタを閉じ、やっとこっちに振り向いた。


「それで、なんだ。俺はまだメンバーの半分しか電話してないぞ」


「どんだけいるんだよ…」

「いやいやそうじゃなくて、宇宙人のことなんだけど…


「なんだ⁉ まさか、見間違いとかいうんじゃねえだろうな? 今更取り消せねえぞ、みんな張り切って兵器を開発してるからな⁉」


「バカ、そうじゃねえよアホ」


「なんだと、悪口を二回も…


「あーうるさい。いちいちツッコむな。いいか、よく聞け、なんと、宇宙船が、この星を横切ったんだ!」


「は?」


「『は?』ってなんだよ。わからないのか? ここに向かって侵略してくると思った宇宙船が、なぜか横切ってどっか行ったんだよ!」


「?……ああっ! そういうことか! じゃあ助かったのか?」


「その可能性もあるけど……。でもよく考えてみろ。小型船たった1機で攻めてくると思うか?」


「それな! 思った!」


「そんで、あの宇宙船は単なる偵察隊で、何年か経って本隊が攻めてくる! なんてことがあるかもしれない」


「そいつはやべえな……。でもただ単に、他のところに用事があった。ってこともあるだろ?」


「まあ、確かにな、それが一番良いんだけど、でもなんとなく嫌な予感がするんだよなぁ」


「でも今回攻めてこなくてよかったな」


「ああ、今襲撃されたらかなりやばかった。これでゆっくりと準備ができる」


「……うん。いや、ゆっくりはしてらんねえよ⁉ いつまた攻めてくるかわかんないしな」


「でも世間に公表できる。今攻めてくる! とか言ったらパニックになっただろうが、後でなら大丈夫だろ。きっと、星をまとめてくれるお偉いさん方が、万全の準備をするだろうぜ」


「これから忙しくなるな」


「え? なんで?」


「政府の人たちより、俺たち専門家のほうがそっち方面は絶対得意だし詳しいから、きっと協力を求められるぞ」


「ああ、そうだな」


「うん。俺たちで返り討ちにしてやろうぜ!」


 ステラとニコラは、お互いのこぶしを漫画っぽく打ち合わせて、誓った。


 2人で覚悟の余韻に浸っていたその時、突然警報が鳴りだした。


 ビィィィ‼ ビィィィ‼


「うわっ、なんだ?」


「なんで人工衛星の警報が鳴っているんだ……。もう宇宙人は去ったはずだろ」


 ニコラがそう言って、自分の人工衛星から受け取った信号を確認する。


 そして、10秒ほどそこを見つめ、顔を青ざめながらステラに振り向き、こう言った。


「やっぱ……、こっち……、向かってきてます」


「ええっ⁉ なんで? 通り過ぎたっていったじゃん!」


「やつら、Uターンしてきました」

 そしてそれは、完全にここ、ニビルを標的にしていることを示すのであった。


 2人は息ピッタリで空気を吸い込み、同時に叫んだ。


「「ぎゃああああああああ!!!!」」



「なんでだよ、どっか行けよもう!」


「ヤバイって! マジで! もう確定じゃん!」


「どうする?」


「とりあえず発明仲間をここに呼んで、作戦会議だ!」


「OK!」


 ニコラは、慌てると自分の家の、吹き抜けで屋根がないところから空を見る癖がある。


 今回もそれが発動した。


「あ、もしもし、あの急いでこっちに……


 その時だった。


 見上げたはるか遠くの青い空に、やけに明るい物体があった。


「ん? なんだあれ?」


 それは、宇宙の研究で見慣れていた隕石に見えた。


 しかも真上にそれがあるということは……それがここに落ちてくる!


「うわっ! ヤバイ!」


「どうした、またなんか起こったのか⁉ てか今日お前それしか……


「標準、【空から降ってくるやつ】、ミサイル発射!」


 ニコラの叫び声に反応して、建物を取り囲むように配置されていた4本のミサイルが、同時に発射された。


「ええええええ!?!?!?! マジでどうしたのおおおおお!?!?!?!」

 その反応をするのも無理はない。

 緊急で行動していた最中、いきなり自分の周囲からミサイルが発射されたのだから。

 ステラも叫ぶのと同時に、空を見上げた。


 その目に映るのは、すさまじい爆風と煙と熱を吹いて上空へ打ち出された小型ミサイル4つと、それに迎撃された影響で方向を変え、勢いを失いどこかへ墜落していった飛行物体だった。


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