第4話 惑星ニビルの非日常

 発明者は、同じ研究者仲間であるニコラの家に上がり込んでいた。


「なんなんだよあいつらー」

「みんな同じ世界で過去を変えたらそれこそめちゃくちゃになるだろ」


「勝手な奴らだよ。ホントに。自分の都合がいいようにしか解釈しないんだから」


 俺たちはともに、それ専用の免許証が必要なアルコールが入っている飲料、いわゆる【酒】をあおっていた。


「そんなことよりステラ、


「そんなことってなんだよ!」

「こっちはあの混雑の中で大変だったんだよ」


「はいはい、わかったわかった。こっちだってそんなのもう4回聞いてるぞ」


「はぁ~。で? なに?」


「あ、うん。えっと、この星にものすごいスピードで向かってくる天体がある」


「隕石ってことか?」


「詳しいことはまだわからない。だけど、この星の上空を飛んでいる俺の人工衛星が観測したんだ」


「あ、そっか、そういえばお前、ネーベルの衛星買ったけど性能悪すぎて自分で作ったんだもんな」


 ネーベルとは家庭用人工衛星を販売している会社だ。


「まああの価格であの性能だったら俺らみたいなやつ以外の人には結構需要あるよ」


「製作費がヤバかったけどな」


「それは置いといて。その天体がすごく小さいんだよな~」


「彗星とかじゃないのか?」


「そんなレベルのスピードじゃない」


「そんなレベルのスピードじゃないって、どのくらいだよ」


「多分、光速に近い」


「はあ!? そんなわけないだろ!?」


「いや俺も最初見たとき、はあ?って感じだったよ。でも、映像の中の解像度と、衛星の視野を通り過ぎた時間から計算して、本当にそのくらいなんだよ」


「絶対故障だろ」


「俺もそう思ったんだよ。いや、うーんそうなのかな」


「どういうことだ?」


「電波を発信して、正常に動いてるか見たかったんだけど、天体が通り過ぎた直後に、破壊されたっぽい」


「っ!? …………宇宙人?」


「もしかしたら」


「ヤバくね?」


「うん。もしも、そんな光速で動ける宇宙船を操るような文明の星と戦うことになったら、多分、こっち側に勝ち目はない」


 俺は天才天文学者の肩を掴んで叫んだ。


「ヤバいじゃん! ねえねえねえねえねえ! ヤバいじゃん! どうすんのおおお!?」


 どんな反応を見せるかと思いきや、


「そうなんだよおおおおおおおお!!!!」


 と俺と全く同じ動きをした。


「公表するか?」


 そう俺が言うと、


「いや、世界中が大混乱する」


 そう言う彼の落ち着いた声で自分も


「たしかに」


 落ち着いた思考を取り戻す。


「とりあえず知り合いのやつに片っ端から連絡しよう」


「うん」


 このような境地こそ、我々研究者の力の見せ所だ。


 俺たちで、どうにかするしかない。この星ニビルは、ここ100年戦争が全く起こってない。かつての軍事施設は大半が取り壊されて、壊されてないところでも完全に風化して一種の観光スポットと化している。


 もちろん洗練された兵など一人もいない。


「いやでもまだ相手が侵略してくるって決まったわけじゃないし」


「敵にその気がないなら人工衛星なんか壊さないだろ」


「ああ、そっか」


「でも絶対あいてもあせってる。自分たちの存在がバレたことに」


「ああ、そうだな。この世にお前がいて本当に良かった」


「いきなりどうした?俺はそっち側じゃないぞ?」


「いやそんな意味じゃねえよ。お前みたいにニビルから馬鹿みたいに離れたところに人工衛星打ち上げて、第一線で宇宙の観測してるやつがいなかったら、攻めてくる直前まで奴らを認識すらできなかったんだから」


「そうだろ? じゃあこれでお前からの借金は帳消しだな」


「なんでやねん」

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