第32話 第十一章 1
吉田先生との関係は続いていたが、なるみの体調がすぐれなかった事もあり、身体を重ねる事はなかった。なるみが理由を告げる度、彼は「分かった」と微笑み、部屋で数時間くつろいだ後、帰っていく。吉田先生が自身を責めたり困ったりしている姿を見るのが辛く感じてしまいそうになるのも、もしも、彼から「子どもの認知は出来ない」と言われた時の事を考えると自分には耐え難く、なるみは彼との子を妊娠した事実を直接伝える事が、どうしても出来なかった。
なるみは、休日を利用し、実家に行った。娘がシングルマザーになると決めた事に両親は当初、ひどく激怒した。なるみがオブラートに包みながらも事情を話すと、特に、運送会社に長年努めていて、職人気質の父は「そんな子どもは不幸になるに決まっている」と怒鳴り散らした末、諦めるようにと言ってきた。だが、なるみも引き下がらなかった。父と子の意見は平行線のまま、交わらずにいたが、母がそんな二人の仲を取り持った。母も娘を心配し反対していたが、次第に「なるみの人生だもの。あなたが選んだ事だから、私が何かを言うべきではないわ」と発するようになり、最終的に、父には彼女から説得をしてくれた。時間は多少要したが、両親という心強い味方を得て、なるみは母子手帳を発行した。
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