第22話 第七章3

 吉田先生が、右手をなるみの顎に添えると、やや上に上げるとその唇で彼女の口元を塞いでは、何度もその行為を繰り返す。次第に、なるみの頭は芯から霧がかかったかのようにぼんやりとしていく。吉田先生の唇が、なるみの首筋に移動すると同時に、その両手で彼女の服が脱がされていく。なるみの肩に顔を埋め、彼は彼女の乳房を包み込むと、ほどよい力加減で刺激を与えていく。

 吉田先生は仰向けにした、なるみの身体を愛撫しながら、自分の着衣を抜いでいく。なるみの下半身は、もうすでに彼によって十分に満ち足りている。

————もう引き返せない。私も吉田先生の事が好きだから。

 やがて、吉田先生がなるみの中に入ってきて、そのリアルな感触に、なるみは思わず「あ」と声を漏らした。

「大丈夫?」

吉田先生が眉を寄せた表情で訊ねる。

なるみは顔を上下に動かしながら「大丈夫です」と答えた。

微笑んだ後、吉田先生がゆっくりとその身体を動かし始め、なるみも彼を受け入れてゆく。互いの足がもつれ合い、指を絡ませながら、二人の動きは徐々に激しさを増す。彼の唇や肌が触れた部分が熱を帯びる。

「川島…………」

吉田先生が息を切らせながら、彼女の名前を呼ぶ。

「はい…………」

「川島…………。なるみ、好きだ…………」

「私も好きです………、先生…………」

なるみは、彼の首に両手を回す。

 シーツがこすれる音が大きくなっていき、吉田先生が、なるみの身体の上で朽ち果てた。なるみは頭の芯からぼんやりとしていて、脱力感が全身を包み込んでいる。子宮からじんわりと躰に伝わっていく痛みが、次第に幸福感に変換される。

 やがて、少し落ち着きを取り戻したなるみは、久しぶりに肌で感じる生暖かい、ぬるっとした液体を眺めながら、その重さは自分の気持ちを制する事が出来なかった罪の深さと比例するものだと思った。右隣で横になった吉田先生は、仰向けのまま、腕で目元を隠し、荒い呼吸を整えている。

 どの位経ったのだろう。吉田先生が微動もせず、「すまなかった」と言った。

————その言葉は、いったい、何に対しての謝罪なのだろう?

「いえ……………」

「俺は、本当に男としても教師としても最低だな」

なるみは彼の方に身体の向きを直し「そんな事はありません!」と、力強く言った。「最低なのは私も一緒です! 先生の事情を知っていたのに、好きになってしまったのですから」

吉田先生もゆっくりとなるみと向かい合い、微笑むと「ありがとう」と言い、頷いた。

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