第20話 第七章1
今の、この状況は、果たして、夢なのか、それとも………。
寝室のベッドのくぼみ具合が、いつもより深くて、互いが動く度、小さな悲鳴を上げるかのように、軋む。背後から両腕を回して、なるみの左肩に乗せられた吉田先生の口元からは、彼がする規則正しい静かな呼吸が聞えてくる。
————これは、いつもの想像じゃない。現実だ。
なるみは、吉田先生の身体の重みを背中で感じながら軽い眩暈を覚えた。
————この部屋で吉田先生と過ごす事になるなんて、まだ信じられない。
横断歩道の前で、自分たちの気持ちを伝えあった後、しばらくの間、気まずい空気が流れたが、やがて、どちらからともなく身体の向きを変えると無言のままで歩き出した。自分の自宅のアパートの前に辿り着いた時、なるみは吉田先生を見ながら「今日は先生の貴重な時間を邪魔してしまいました。すみません」と言い、軽く頭を下げたのち、彼に背を向けた。なるみが数歩歩いた時、背後で吉田先生が「川島」と彼女を呼び止めた。
「さっき言った事は、俺の本心だから」
吉田先生は真剣な表情だった。
「はい…………」
吉田先生が「それじゃ、また」と言って微笑むと、足の向きを変えようとする気配がして、なるみは咄嗟に「先生……………」と彼の行動を制止させてしまった。自分でも何故、あの時、そんな事をしてしまったのか分からないが、気が付いた時には、名前を呼ばれ、驚いた様子だった彼に「よろしければ、お茶でも飲んでいかれませんか?」と言っていた。
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