第16話 第五章 3

 周囲の客たちは、絶え間なく入れ替わり続いている。その場から動かず、話をしているのは、なるみと江無田ぐらいだった。

「しかし、木下と佐藤、どこを見ているのだろう。ちょっと遅くないか?」

江無田がスマートフォンの画面を見ながら言う。

「そうだね」

「まったく、あいつらは。お節介というか、自由奔放というか。本当に困るな」

なるみは黙って頷いた。

江無田が「こうなったら、あいつらの携帯、鳴らしてみるか」と言って、スマートフォンを操作し始める。その時、遠くから「あっ! いた!」という大声が聞えて、声の方に振り替えると由香里と恵が、こちらに向かって手を振りながら走って来るのが見えた。

 江無田が彼女たちに「お前ら、どこをほっつき歩いていたんだよ」と叫ぶ。

由香里と恵は息を軽く弾ませながら駆け寄って来た。

「ごめん、ペンギンを見ていたら可愛くって、時計を見るのを忘れてたんだよ」

恵が顔の前で両手を合わせる。

「それに二人で話していたら、長くなっちゃって」

由香里も暗い表情を作っている。

なるみは「大丈夫。大丈夫!」と、あえて明るく言った。「江無田君とも話せたし、私は何も怒ってないから」

「なら、いいけど…………」

由香里と恵は、一瞬で肩の力を脱いた。

 江無田が「なら、腹も減ったし、飯でも食いに行くか」と言い出し、女子の三人も「賛成!」と言い、四人は水族館を後にした。

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