第15話 第五章 2
なるみは、彼と距離を取るように水槽の方に近づいた。————周囲には今の私たちは、どんな風に見えているのだろう。————きっと恋人同士に見えているのだろう、などと考えて、背後にいる江無田の気配を感じている。
数分間、水槽の前でぼんやりしていた彼女の隣に江無田が気まずそうに髪を掻きながら並んだ。
「なんか、ごめんな」
江無田が言う。
「どうして、江無田君が謝るの?」
「いや…………、その、なんとなく…………」
「私の方こそ、ごめんなさい」
なるみは、彼の方をチラッと見た。
江無田が「いやいや」と頭を左右に振った。「もう、この話題は、よそう。せっかく来たんだし、楽しもうぜ」
「そうだね」
なるみは、笑った。
「川島は、やっぱり笑顔の方が似合うよ」
「そう?」
「うん」
江無田は薄く笑みを見せた。
なるみは、ずっと気になっていた事を聞こうと思い、彼に気づかれないように静かに息を吐いた。
「ねぇ、ひとつ、聞いてもいいかな?」
「うん。何?」
江無田が聞き返す。
「どうして…………、同窓会の時、江無田君は、あんなに汗をかいていたの? その…………、ずっと気になっていて」
江無田は「あぁ…………」と、一瞬、遠くを見た。「別に、大した事はないよ。俺、子供の頃から汗っかきだから。あの時、平野と紫原と酒を飲みながら騒いでいたら、だんだん流れるように汗が出てきたというわけさ」
「そうだったんだ」
「謎は解けた?」
なるみは「うん」と頷いた。「すっきりした」
江無田は「それは良かった」と微笑んだ。
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