第14話 第五章 1

 真夏の殺人的な暑さから逃れるには最適な場所なのは分かる。冷房が常に効いていて、視界から入ってくる情報も涼しげで、可愛らしい生き物たちに癒されるのは確かだ。

 ————何故、このメンバーで水族館に行くのだろうか。

恵と由香里の女子三人なら思いっきり楽しめるはずなのに、何故そこに江無田の姿もあるのだろう。別に彼の事が嫌いではないが、学生時代にそこまで親しかった間柄でもなかったので、どう振る舞っていいのか正直分からない。江無田もきっと同じ気持ちなのだろう。待ち合わせ場所で会った時から、彼はやたらと一人で三人の女子たちに向けて一方的に喋り続けている。恵と由香里はそれに合わせ相打ちを打っているが、なるみは一歩引き、黙って彼らを見ているだけだ。

 水族館の館内は多くの家族連れや恋人たちで溢れている。水槽の中では、有名な魚体も、あまり知られていない生物も共に生殖していて、なかなか興味深い。

 静かに観覧していた、なるみと江無田をよそに恵と由香里は年甲斐もなく、はしゃいでいて、やがて彼女たちは「ちょっと、向こうを見て来るね」と言い残し、別のコーナーの方に消えて行き、なるみは戸惑い気味で「えっ…………」と発したが、その時には彼女たちの姿は見えなかった。急に江無田と二人になり、なるみは硬直してしまった。

「まったく、あいつらは…………」

江無田は、ため息交じりで言葉を発した。

「どうしよう」

なるみ、目を防ぎがちに言う。

「何が?」

「だって私、正直、江無田君と何をどう話せばいいのか分からないし…………」

「別に普通でいいじゃん」

「普通って?」

「木下や佐藤と話すような感じ?」

なるみは、う~ん、と唸り、「それは、ちょっと…………無理かな」と言った。

「どうして?」

「江無田君が男性だから…………かな」

江無田は、なんだよ、それ、と言い苦笑した。「川島って、ひょっとして、俺の事、意識しているのか?」

なるみは慌てて「まさか! そんな事はないけど」と言いながら、顔と両手を振る。

「そんなに全身で否定しなくてもいいじゃん」

江無田が急に無表情になる。

「あ、ごめん…………」

なるみが頭を軽く下げた。

 江無田はデニムパンツのポケットに手を入れると、正面に向き直す。「まぁ。木下と佐藤の今日の目的は、俺と川島を近づける事だろうけど」

「えっ、そうなの?」

なるみの声のトーンが上がる。

「知らなかったのか?」

「うん………」

「あの二人の言動を見りゃ、普通、それくらい察するだろう?」

————そんな事を言われたって、分からない事は分からない。

「ごめん………」

江無田は、別に謝る事でもないけど、とバツが悪そうに視線を泳がせる。

 そこで会話が途切れてしまい、二人の間に気まずい空気が流れ始めた。

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