第13話 第四章 3

 どの位、時間が経ったのか分からない。湿った風が肌を撫でていく。

 均衡を破ったのは、吉田先生だった。

「そう言えば、この前の同窓会の時、川島は俺を見て、どう思ったんだ?」

「どうって…………?」

「こいつ、老けたなぁとか、おじさんになったなぁとかさ。まぁ、そういう類の事さ」

なるみは「まぁ…………」と言った。「失礼ですけど、正直なところ、ちょっと思いました」

吉田先生は「正直でよろしい」と微笑んだ。「実際に俺は三十八だし、子供二人もいる立派なおじさんだからなぁ」

「年齢は、あまり関係はないかと…………」

「そうなのか?」

「むしろ、気持ちの問題ではないのでしょうか?」

吉田先生は「気持ち、ね…………」と苦笑する。「結婚して、子供も出来ると自分が一気に年老いた気分になるんだ。もちろん子供は可愛い。けど、妻はね」

「奥さん…………ですか」

 吉田先生は「そう」と頷く。「妻とは駅の近くの書店で知り合ったんだ。俺、一応、国語が専門だし、子供の頃から読書が好きだったから、本屋は庭みたいな場所だった」

「はぁ…………」

「ある日、いつものように書店に行った時、探している本が見つからなくて店員に尋ねたんだ。まぁ、その尋ねた相手が妻だったんだけどね。何度か会っていく内に意気投合しちゃって、結婚したんだ」

―――—先生と奥さんの馴れ初めなど聞きたくない。

「妻は今でも書店で働いているんだけど、時々、子育ての苛立ちと混乱するらしくてヒステリーを起こすんだ。俺も極力、子育てには協力しているつもりだが、妻が言うには全然足りないらしい。まぁ、昨日も妻がそういう状態になってしまって、その結果、俺の今日の昼食は、おにぎりと総菜になったって訳だ」

吉田先生は、再び苦笑した。

なるみは、――――先生も大変だな、と思いながらも「そうだったんですね」と答える。

 吉田先生が「こんな話をして、すまない」と謝ってくる。

なるみは「いえいえ」と言うと、吉田先生は「長居をしてしまった。でも川島に話を聞いてもらえて良かった。それじゃ、俺は学校に戻るよ」と言い、立った。

なるみは微笑み「私でよければ、いつでも愚痴を聞きますから…………」と答えた。

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