第12話 第四章 2
吉田先生が「しかし、暑いな」と言いながら、Tシャツを扇ぎ身体に生温い風を送っている。なるみは昼休憩の時間になり、何故か店の裏側にある社員用の喫煙所に設置されている木製の長椅子に吉田先生と座っている。
支払いを終えた吉田先生はそのまま店を出ていくかと思っていたなるみだったが、彼は彼女に再度近づき「ちょっと時間あるか?」と聞いてきた。なるみは時計を確認し「一時から休憩ですけど…………」と答えると吉田先生は「それじゃ、店の表で待っている」と言い残して、その場を去って行った。なるみは休憩時間になったのを確認し、レジを離れると急いで外に出た。
吉田先生は、おにぎりと総菜を手にしたままで立ち尽くしている。なるみは彼の元に駆け寄り「先生、立ったままで食事する気ですか?」と、わざと訊ねた。
「まさか、そんな事はしないよ」
吉田先生は苦笑する。
なるみは柔らかい笑みを浮かべ「それじゃ、立ち話はいけませんね。裏側に社員用の長椅子があるので、そこに行きましょう」と言い、移動するように促した。
喫煙所に来て、早十分が経過しようとしていて、その間に吉田先生は食事を終えた。冷静さを取り戻したなるみは、彼と二人きりの空間に動揺していた。
困惑しているなるみに吉田先生は「川島は、高校卒業後は、ずっとこのスーパーマーケットで働いていたのか」と訊ねてくる。
「はい」
なるみは小声で言い、頷く。
「仕事は楽しいか?」
「…………どうでしょうね」
なるみは曖昧に答えた。
吉田先生は「まぁ、仕事が楽しいわけがないか」と言い、苦笑する。
なるみが「先生、そろそろ学校に戻った方がいいのではないでしょうか? 授業があるのではないのではありませんか?」と聞くと、吉田先生は「大丈夫。今日は午後イチの授業はないから」と言い、薄く笑った。「川島さえ良けりゃ、俺はもうちょっとここでズル休みしたいんだけどなぁ」
————教師もそんな事、思うのか。
「私は全然、構いませんけど……………」
吉田先生は表情を明るくさせ「ありがとう」と言った。
だが、会話が続かない。沈黙の中、なるみは同窓会の事を思い出し、————先生はもう結婚しているんだ、と思ったとたんに悲しさが突如胸いっぱいに広がった。
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