第10話 第三章 3
各世代の代表が行う恩師からの言葉、恩師への挨拶というプログラムが終わり、閉会の挨拶の後、全体での写真を撮り、数時間に及ぶ、同窓会が終了した。
だが、なるみはまだ会場に残っている。由香里と恵は、他の友達に顔を見せてくる、と言って、彼女から離れて行ってしまった。なるみは会場の中を移動して回るでもなく、遠くから吉田先生の気配を感じていた。
彼は、かつての同僚たちと親しげに話をしている。時には笑い声を出しながら、長い時間、その場を離れなかった。————ストーカーみたいに思われるのは嫌だな、と思い、なるみは吉田先生を直視せず、視界の隅でその姿を捉え続けている。
吉田先生が、不意にそれまでいた輪を離れた。彼はグラスを手にしたまま、ドリンクコーナーへ向かって行く。
「あれ、吉田先生じゃない!」と、どこからともなく彼の名前を叫ぶ声が聞こえた。
「マジだ!」
「吉田だよ!」
吉田先生の事を知る元教え子たちが、素早く彼の周囲を囲んだ。無論、なるみも自然さを装いながら、その勢いに身を任せた。
「先生、俺たちの事、覚えているんですか?」
青葉という元男子生徒が聞く。
「当たり前だろう。初めて受けもった三年生が、お前たちだったからなぁ。忘れる訳がないだろう」
目の前にいる吉田先生は記憶の中よりも多少老けてはいたが、声も話し方も当時のままだった。
おぉ―――! という歓声が上がった。
「当時の私たちは先生から見て、どんな感じでしたか?」
今度は、近藤という元女子高校生が訊ねる。
「そりゃ、もうクソ生意気なガキだったなぁ」吉田先生は苦笑する。「でも可愛かった…………」
「先生は今、どこの学校に勤務しているのですか?」
武田という元男子生徒が聞く。
「今か…………」吉田先生は、ある高校の校名を言った。その学校は、なるみの職場であるスーパーマーケットの近くに建っている。
「吉田先生、ご結婚は?」
いつからそこにいたのか、江無田が訊ねる。
「しているよ。子供も二人いる。小四と小二だ」そう言って、吉田先生は目を細めた。
その言葉を聞いて、なるみは咄嗟に彼の左手を見ると確かに薬指には銀色の指輪が着けられていた。
————やっぱり時間は確実に流れているんだ。
なるみは複雑な気持ちを抱えたまま、顔を上げると何故か、吉田先生と視線がぶつかった。
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