第9話 第三章 2

 乾杯の音頭が終わり、歓談をしながらの会食が始まった。なるみは視界の隅で吉田先生の姿を追いながら、由香里と恵と共にバイキングブースに行き、それぞれ好きな料理を選び、テーブル席を確保した。なるみはキノコとベーコンの和風パスタ、由香里は鶏の砂肝と大根キムチの和え物、恵は牛ロース肉のステーキをゆっくりと口に運びながら、たわいもない会話を楽しんでいる。彼女たちのテーブルの横を江無田将輝が素通りしようとしている。

 恵が彼を呼び止めた。「ちょっと江無田、同級生の女子に挨拶もしないって、アンタ、どういう神経をしているのよ」

「ごめん。気付かなかったんだ」

江無田は昔と変わらない面長な輪郭な顔で太い眉をしていた。

「気づかない? 絶対、嘘だよね?」

由香里が彼を茶化す。

「いや、本当に悪かったって」

江無田はノーネクタイでブルーのシャツを着ているが、何故か首筋に大粒の汗が吹き出している。

「とかなんとか言っちゃって、本当は、なるみに話しかけようとか思っていたんじゃない?」

「ちょっと、恵、何を言っているのよ」

なるみがすかさず言う。

「ねぇ、江無田って今、建設会社の社長なんだって?」

由香里が彼の方を見る。

「まぁ…………、一応、そういう事にはなっているけど――――」江無田は左頬を掻く。「親父が理事長をしているから決定権は俺にはまだないよ。まぁ、実際にはまだまだ下っ端の身さ」

「アンタも辛い立場ってわけか…………」

恵が深く頷く。

「まぁな」

江無田はため息交じりで言う。

「ところで、江無田には彼女はいるの?」

由香里が彼に聞く。

「いないよ…………」江無田が頭を左右に振る。「仕事が忙しくて、それところじゃないよ」

「そうか…………」

恵が視線を落とす。

 由香里が突然、両手を叩いて「それじゃ、今度、四人でどこかへ遊びに行かない?」と言い出し、恵も「賛成!」と話に加わってきた。

「でも、俺、お前らとそんなに仲がいいわけでもないし…………」

「この際、固い事なんか、どうでもいいじゃん」

「同級生の好みっていうことで」

由香里と恵は、すっかりその気になっている。

「なるみも一緒に行こうよ」

「うん。いいよ」

なるみは、――——そう言うしかないだろう、と思いながら返事をする。

「じゃさ。江無田、連絡先、教えて」恵がスマートフォンを取り出す。

江無田もスマートフォンを出して、恵と由香里と連絡先を交換した。

「なるみも交換しておいてね」

恵にそう言われて、なるみは白いパーティーパッグからスマートフォンを取り出し、江無田と共に操作をし始めた。やがて、ディスプレイに彼の名前が表示された。

 

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