第8話 第三章 1
日光を浴び、若草の色が濃くなる。全面、ブルーの巨大なキャンパスの下、それは、よく似合っている。風が吹き、葉の隙間から射す光は、初夏の訪れを思わせる。なるみは春でもなく、夏でもない、緑の季節が好きだった。
一目でよそ行きの恰好だと分かる服装で、なるみは一流と呼ばれている背が高いホテルの前に立つ。黒いV字ネックのトレーワンピを着て、滅多に履かないピンヒール、首元には安物の真珠のネックレスを付けている。この時期の紫外線が一番肌には大敵なので、薄手の白いカーデガンを羽織っている。
会場である大ホールの前には学名が記されている同窓会の看板が立て掛けられていて、受付を済ませた後、なるみは会場に入室した。
天井からは煌びやかなシャンデリアが吊るされていて、床が見えないほどに埋め尽くすようにセッティングされている各テーブルには、もうすでに小さな人の群れがあちらこちらで出来ていた。
知らない顔で満ちている空気に、なるみは気後れを覚えた。室内の奥に設置されているセルフサービスで取れるドリンクコーナーに行き、オレンジジュースを取り、喉の乾きを潤しながら、しばらく人たちを眺めている。その場にいる誰もが皆、同じように着飾っていて、同じように苦労した部分を隠そうとしているように見えて、悪い事だと分かっていながらも、内心、クスッと笑ってしまった。
ぼんやりしていた彼女の耳に「なるみじゃない!」と言う聞き覚えがある声が届いて、振り向くと、
「懐かしい。なるみ、元気だった?」
色黒の由香里が言う。
「うん。元気だよ」
「いや、何年ぶりだっけ? 会うの」
ふくよかな体型の恵が言う。
「最後に会ったのは――――、確か三人で遊んだ日だから――――、四年振りかな」
由香里と恵は同級生で、いつも三人で遊んでいた。
「もう、そんなに経つんだね」
「仕事は、どう?」
「まぁまぁ、かな」
由香里はスポーツインストラクター、恵は料理人だ。
「そう言えば、あいつも来ているよ」
恵がニヤリと笑う。
「あいつって誰?」
「
「あぁ…………、江無田君…………」
「江無田って、なるみの事、好きだったんじゃなかったけ?」
「誤解です」
なるみは即答した。
「はい、はい」由香里が苦笑交じりで右手を軽く振る。「でも江無田は親の後を継いで今じゃ建設会社の社長じゃん」
「へぇ――――、そうなんだ」
司会者の男性が「それでは、お時間になりましたので――――」とマイク超しに言い始めて、ざわついていた会場が一気に静まり返った。なるみは会場をもう一度見渡したが、探している姿はなかった。
代表幹事の挨拶が始まったと同時にドアが開いた。なるみは自然と視線をドアの方に向ける。入室して来たのは、グレーのスーツ姿の吉田先生だった。
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