第5話 第二章 1
朝、職場であるスーパーマーケットが開店する一時間前には出社する。更衣室で着替えを済ませた後、タイムカードを押す。そこからが、一日、八時間労働の始まりだ。
店内に足を踏み入れてしまえば、座る事はほぼないに等しい。商品の品出し、朝礼、開店、レジに立ち接客業をこなす。時々、接客用の作り笑顔のまま、―――いったい自分はこんな場所で何をしているのだろう、と悲しさや虚しさを覚える事がある。しかし、思いとは裏腹に身体は勝手に動いてしまっているのは一種の商業病と言わざるを得ない。昼休憩が一時間あるが、その後は商品の発注・伝票処理、前日の売上金をパソコンに入力、手が空くとレジに戻るという大げさに言ってしまえば体力勝負だ。
勤務体制は二交代で、夜勤の場合も休憩時間はもちろんある。夕方から閉店まで働き、閉店後は当日の売上金を精算し、事務所に持っていき、店の表玄関の鍵を掛け、店内の電気を消すまでが業務だ。そしてタイムカードを押し、自宅に帰るという日々の生活。土日祝日も関係なく、味気もない日常の中で自分だけが時代に取り残されたような錯覚に陥り、湧き上がってくる憂鬱な気持ちは、きっとこの職場にいる限り、払拭する事は出来ないだろう。
流れ作業を淡々と行うだけなら、まだ疲労感も軽減するかもしれない。だが、他の職種もそうであるように体力よりも精神的な面での消耗を要するのは、やはり職場での人間関係だろう。ましてや田舎のスーパーマーケット。高倉をはじめ、自分の親と変わらない世代の人たちに囲まれて、その相手をするのも並大抵な事ではない。
せめて、職場に自分と同世代の同僚がいればいいのだが、あいにく、その願いが叶った事がない。いや、違う。例え若い人が入社してきたとしても、すぐ辞めていくのだった。
――――自分は、このままこの職場で働き続けて老いてゆくのだろうか、なるみは漠然と思ってしまう。
なるみは同窓会の案内状の【出席】の文字を丸で囲み、郵送した。当日までは後二か月余りの期間があるというのに、その日常が生き生きと過ぎていくようで浮き立って仕方なかった。いかにも中年男性らしい中肉中背で、いつも油で顔が輝いていて、豚を連想させる部長の
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