第3話,the crazy
「なんすか?アレ」
俺は師匠に目の前で起きてる惨事を指をさして尋ねた。
バイクは原型を留めておらず、またほんのすこしではあるが火が出ている。
「あの人こそが最強の陰陽師、
「えっ、アレがか」
師匠の代わりに万智が答える。
それに俺は血塗れのオッサンを一瞥する。
イカれた自己紹介に、突然の失神。明らかにヤバい奴というのは分かりきっている。正直、あんまり関わりたくないような人、要は俺の中では第一印象はハナから大暴落だった。
「まぁ、ホンマに不本意ではあるけど、ここで死なれても厄介や。すまんけど一、部屋借りれるか?」
「いいっすよ」
「ほなおおきに」
そう言って師匠は着物の袖から紙を取り出す。
「現れい。そんでこいつを奥に」
そう言うと紙は具現化し、子杜を運んでいく。
いわゆる式神というやつだ。
「俺らどうしてましょうか」
「暇すんのもどうかと思うし、適当にお茶しとこか」
「はぁ……」
俺のため息を無視して二人は子杜を追って奥の方に消えて行った。
「いやぁ、助かったよ!ホント、死ぬかと思ったよ。いやぁ、頼りになるねぇ!」
回復して早々に俺が出したお茶をガブ飲みしてこう言った。ちなみに、血塗れのスーツはどうかということで替えの服を用意したのだが、師匠から頭が常夏のバカということからアロハシャツを用意された。少し同情を覚えてしまった。
「ホンマ、何回血塗れになるつもりやの?」
「いやぁ、まだ一万回はいってないよ!」
「はよ死ねばよろしいのに」
「ツキに愛されてるんでしょうね!ハッハ!」
師匠と子杜は軽いジョークを飛ばし合う。しかし、妙な威圧感が大いに感じられてしまう。
「ほんで、今回の目的はなんですの?」
「ハッハ!そうでしたね」
そう言って子杜は俺に一瞥をくれた。とても冷たい瞳だった。獣が獲物を品定めするかのような、それでいるのに、温かみを帯びているような、そんな瞳だった。
俺は背筋をピンと伸ばした。恐怖と緊張、両方が一気にきた。
「いいよいいよ。楽にしてくれ」
さっきまでの陽気な声とは一転した、落ち着きのある声だった。
「君は、
俺は首を無言で縦に振る。
「そうか、君の話はそこの唯から聞いている。そして、昨日幻夜君が死んだそうだね」
俺は再び首を縦に振る。
「それはとても残念だったね。だが、君のこれからの立場上これ以上は悲しみの鎖に居続けるのは良くない」
「それは……」
「いや、分かっているならいいんだ。これからの話をしやすくなるからね」
言葉の詰まった俺を宥めてそう言うと、子杜はフッと笑った。
「話、ですか……?」
「そう。これからの話はあまりにも酷な話さ。だが、私の大人としての義務でもある」
少し寂しそうな表情をした。何かしらと闘っているように。
「まず、幻夜君の遺体だが、憑依型の妖は厄介でね、宿主が死んでも活動する個体もある。だからこそ、葬式に連れて行ってやることはできない」
その宣告は薄々理解出来ていた。憑依型の妖は宿主が死んでも宿主の体を媒体にして生き続けることが出来るのは知っていた。そこに驚きはなかったし、覚悟もしている。そんな俺を見て、フッと子杜は笑う。
「いい顔立ちだ。まぁ、かと言って僕もその状態になることは悲しいのでね。なるべく善処させよう」
「ありがとうございます」
声は小さかったが、そこには感謝しかなかった。
「次に、君は寅牧家を継ぐことになった」
驚きはない。幻夜の次は俺しか寅牧はいない。当然といえば当然の判断だ。しかし…………
「何考えてるんですか!コイツは昨日初陣したばかりで……」
「知っている。それも報告にあったさ。焦らずに、話を最後まで聞くといい。猪瀬嬢」
「………………」
まだ何か言いたそうだったが、万智は黙るようにした。
「まぁ、猪瀬嬢の話も分からなくない。寅牧は現状大阪ぐらいにしかまともに影響力はない。だが、兵庫と奈良には他に頼っているとはいえ腐っても君たちの管轄。すると、一応一族ではないが他の陰陽師が管轄をサポートしている。そう言う状況だ。そうでいいよね?」
「はい」
正しくその通りだった。
「ありがとう。そこで本題だ。管轄区域に関してはあまり問題はないと僕は思っている。だが一つ、それ以外に問題がある」
「寅牧の人数ですか」
「話しが早くて助かるよ。そうだ。数年前の妖との戦闘で寅牧は大きな痛手を負った。そこから寅牧家の勢いが削がれ過ぎてしまった。だからこその、君たちなんだ」
そう言って子杜は唯と万智の二人を指差す。
「君達には、この一君が独り立ちするまで、一旦の所属を寅牧に移す」
「ええですよ」
「はぁーいィィーー!!」
師匠の方はすました返事をして、万智は納得言っておらず、素っ頓狂な声を上げる。
というか、師匠の方は完全に寝床を探してるみたいだったので内心笑ってるだろう。
というか、すでに笑いを隠しきれていない。
「どうした?猪瀬嬢」
何事も無かったかのように子杜は尋ねる。ある意味頑丈なメンタルは誇ってもいいものだとすら思ってしまう。それがシラフならこの人はちょっとヤバいとすら思ってしまう。
「どうしたもこうしたもありません。唯様はともかく、どうして私もセットなんですか!」
万智の問いに心底不思議そうな顔を子杜はした。
「どうしてって、君、僕ら陰陽師連盟が呼ぶ前はどうする予定だったんだい?」
「高野山の方の霊場で修行の予定でしたが」
「そうか、ハッハ!そうかそうか!」
子杜は一人で大笑いをした。愉快なものに出会ったかのごとく、それは好奇心に満ち満ち、新たなる発見をした子供のようだった。
「それは、嘘だな」
「ですが、私は親からそう言われて!」
「ああ、言われたんだろ。知ってるよ。まぁ、これを見るといい」
そう言って万智に一通の手紙を渡す。
クソッタレなネズミ野郎へ
俺のバカ息子とハニーが俺の可愛い可愛い娘である万智を高野山に送ったと思ったら寅牧家の再興の為に送りやがった。こうなったら仕方ない。娘に万が一があったらお前と寅牧の小僧を殺す
猪瀬家第四十八代当主
俺も初耳だった。というか、万が一がないに決まっているが殺すって怖すぎるだろ。
でも、信用出来ないのも確かだ。無断で没落した家に娘を送らされているのだ、まだ殺すは軽い方なのではないのだろうか?
「ハッハッハ!なるほど、翡翠君は騙される側か。それは大変だったろうね」
「いや、でも……私はここへ来るつもりでは……」
「確かに、猪瀬嬢はここに来るつもりはなかっただろう。だがまぁ、当主である翡翠君も許している。ここは一つ、乗ってはくれないかい?」
そう言って深く息を吐く。そして、
「君にとってもプラスだろう。これが不運だったのは認めよう。僕も合意だと思った。あまりいい結果とは言えないだろう。だがね、ここら辺だっていい修行の場でもある。少しは、良いとはおもうんだけどね?それに、そこの唯さんから修行を受けれる。下手に霊場で修行するよりも、いいと思うよ」
子杜の意見は的を得ていた。確かに、霊場で一人の修行と師匠のような陰陽師としのプロフェッショナルに教えて貰うなら、後者の方がいいに決まっていた。
「はー、分かりました。しばらくの間までなら、いいですよ」
「言うと思っていたよ。まぁ、これで人員は揃ったことやし、とりあえず、若い二人の為にもう一回、基礎の基礎の知識からやり直そうか」
「あら、あたしは若ないん」
「唯さんは怖いほど陰陽師としての成果上げまくってるんで不要かと」
「それもそやな」
そう言って興味なさげに奥の方に行った。
「それじゃあ、まずは簡単な所から始めようか。まず、妖は僕ら陰陽師とか、世間では霊感が強いって言われてるぐらいの人しか見れません。それで、妖は人に害をなすものとなさないものがある。ここまではいいね」
俺たち二人は揃って首を縦に振る。
「ありがとう。僕らが倒さなきゃならないのは害をなすヤツら。それで、妖の発生する原因は何か分かるかな?」
「人の嫉妬や羨望といった負の感情です」
万智が答えた。そこに、子杜はニヒルな笑みを零しながら、惜しい、と言った。
「ならなんですか?」
俺は尋ねた。すると、待っていましたかとでも言わんばかりにニヤニヤしながら子杜は加える。
「正解はね、妖からだ」
「妖から、ですか?」
「そう、妖から」
「あの、それは妖全員がスライムみたいに分裂する。ってことですか?」
俺は尋ねる。妖は千差万別だ。それぐらいしか思い浮かばない。
「半分正解で半分ハズレだ。まず、妖には僕らが定めたランクというものがある。順にC、B、A、そしてS。そして、ランク内にもC-、C、C+と言ったように三つに分けられる」
そこから子杜は一息置いた。
「そして、本題の妖を生む妖だが、最低でもA+の妖とされている。そして、一番の問題だ」
「Sランク以上を生む妖がいる」
「待ってください。そんなのって…………」
俺は言葉を詰まらせた。
「まぁ、そう言いたい気持ちも分かるが、少し待ってくれ。まず、Sランク以上を生む妖というのは一体しかいない。そして場所だけは分かっている。そこは忘れるな」
「そんな、そしたら場所が分かってるならすべきですよ!」
万智はそう言うと、申し訳なさそうに子杜は俯いた。
「確かに、それが正解だ。そこには間違いという概念がない」
「だったら……!」
「それは僕らも、何度も試行錯誤したさ」
俺と万智は悪寒が走る。たしかに、野放しにするなんてありえない。この子杜の発言がどういう意味を指すのか分からないほど、俺達もバカではなかった。
「まぁ、感づいたのだろうね。そうさ。初めの方は僕ら陰陽師連盟は討伐隊を派遣した。それこそ、Sランクを短時間で且つ、無傷で倒せるような奴らもね、でも、全員帰っては来なかった。それで、奴に付けられたランクはX。未知数としてね」
「「…………」」
「まぁ、そう気落とすな。幸いなことに、奴は動きはしない。その場所に留まるだけだ。だからこそ、僕らはそこから出てくる妖を倒すだけなんだ」
「「…………」」
「そう暗くなるな。次は、もっと君たちに身近なことだ。幻夜君、猪瀬嬢、君たちは武器は呪具は持っているかい?」
そう聞かれて俺は刀を持ってくる。
「すいません。私の呪具はまだ配送途中で」
万智はそう言うと、子杜は宥める。
「なら仕方ないね。そしたら一君、その刀を貸してもらってもいいかな」
俺は刀を渡す。すると、どれどれ。と言いながら刀をじっくり観察し始めた。
「なるほど、そしたら、一からだね。
まず、今貸してもらってのが、いわゆる呪具と呼ばれる物だ。呪具は基本普通の武器と変わらない。扱う時は気をつけて扱うようにね。」
「そして、呪具の段階を一段超えた物、それを僕らは神具という。神具はそれなりの数がある。そして、十二の陰陽師の家に代々伝わる神具が存在する。」
そう言って子杜は俺と万智を指差す。
「猪瀬嬢はまだだが、一君。君には神具の発動する条件は揃っている。後は、君がするかしないかだけだが……」
「やります」
俺はキッパリと告げた。
「そうか。なら、これから試練がある。試練場に向かおうか」
そう言って、子杜は立ち上がった。
「やったじゃない。ニートから自立できたじゃない」
「余計なお世話だ。猪女。お前は女らしさでも学べ」
「余計なお世話よ!」
「こっちもな!」
俺と万智がいがみ合っていると、子杜は苦笑いをした。
「仲良くしなさい。これから君たちは結婚するんだからさ」
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
二人の声が大阪中を包んだのだった。
EMPTY きんぎょ @57064
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