第七話『武器買い替えは金欲を生む』

 さて、ラヴィを仲間に引き入れたまでは良かったが、レンタはギルドである事に気付いた。

「俺だけ初期装備じゃない?」

そうなのだ。

フランデリは金属の鎧や片手剣など攻撃力や耐久力を重視した装備、ラヴィは白いローブやムーンリングなど体力やMPを重視した装備をしている。

それらは全て、商店で買った物やモンスターを倒してゲットした物だ。

彼女らの装備を見てから改めて自分の装備を見ると、いかに自分の装備が初期装備すぎるのかが良く分かる。

今まで気にしていなかったが初期装備でない新しい装備は、毒蜂を倒してゲットしたムーンリングしかない。

これは、勇者討伐を目的に冒険する過程で非常に大きな問題では有るまいか。

レンタがそう質問すると、ラヴィは頬杖をついて、答えた。

「うん、確かに。なるべく強い装備を付けて冒険するのは勇者討伐の上で基礎と言っても過言では無いのではないかしら。ハッ…!貧乏さんだったら今の言葉はごめんなさいだったかしら…。」

ラヴィが全く勘違いの言葉を言って、全く勘違いの心配を掛けているが気にしない様にしよう。

「それで、商店に買い物をしに行こうと思うんだ。俺は自分の装備を買いに行くから、ラヴィさんとフランデリは薬草とか旅に必要な物を買い漁って来てくれ。」

レンタはそう言いながら、自身の財布の中を確認する。

クエスト報酬の銀貨3枚と、パーティ名員の金を合わせて、全部で銀貨30枚。

言ってみればレンタはこのパーティのパーティ長だ。

もしもの時の為に、パーティの金を管理するのもパーティ長の仕事だろう。

レンタはラヴィとフランデリの手に銀貨8枚を乗せてこう言った。

「これで薬草とか生活品を買ってきてくれ。今日か明日には出発したいしな。」

「おっけー、分かったわ。爆買いしてくるわね。」

「爆買いは別に良いんだけど、必要分だけな。…ラヴィさんフランデリの子守をお願いしても良いですか?」

「ええ、良いですよ。了解しました。」

ラヴィはレンタの言葉に口角を緩めて、笑いながら了解の言葉を発した。

そして、買い物が終わったら宿の二階の一室に集合する様に言って、レンタとフランデリ達はそれぞれ分かれていった。

ーー武器商店ーー

「いらっしゃい。」

カウンターの椅子でこっちを見ながら無表情でそう言った老人、オード・バックは、少ない武器商店の中の一つの店の店長である。

オードは年齢を感じさせない速さでレンタの方に歩いて来た。

そして、レンタと目を合わせながら次の言葉を発した。

「それで、今日はどんなのをお探しで?」

「うーん…強いやつを。」

「うちで取り扱ってる武器は、皆ここいらでは強い部類に入るわ。失礼だな。」

確かに、この言葉は禁句だったか。

事業に失敗した店とかに行って、「強いやつを。」とか言ったら、ブラックリストに秒で入れられかねない。

レンタは少し考えてから、こう言い直した。

「では、俺が扱いやすい武器を。」

こう言う事で相手の気持ちも乱さず、なおかつ自分に似合った武器を手にする事が可能となる。

オードはレンタの容姿を見ながら、こう言った。

「そうだねぇ…あんた見た目からして随分ヒョロいから、高火力だけどハンマーとか大剣とかは外した方が良いかもな。物理系だったら片手剣か両手剣、それか弓だね。あ、もしかしてあんた魔法系かい?だとしたらヒョロいのも納得出来るかな。魔法術師は物理の能力値が低いから、その腰に掛けてる剣は、そこらへんの能力値を補う為のモンか。だったらば、物理系は使いやすさを重視して弓で良いか。弓だったら、多種多様の属性を纏わせる事で火力を変えたり出来るから楽だぞ。まぁそれは高度な技術が必要だが、努力次第って感じだな。あと魔法系は、魔法詠唱の必要を無くす効果がある、この魔法杖を持っていきなさい。靴は素早さを重視して風属性を纏わせた水色ブーツを履いていくと良い。防具は…そうだな。魔法術師だとすれば物理防御力が低いから、この鉄の鎧を持っていけば良いだろう。防御力が上がると同時に素早さもそんなに下がらないというスグレモノだ。」

流石は武器商店の親父だ。

客の容姿をストーカーの如くジロジロ見て、それに見合った装備を提供する。

それに、

「へー。じゃ、それ全部下さい。何円ですか?」

「3銀貨だが説明分合わせて4銀貨だ。良いな、4銀貨だぞ?」

何かしら言い訳を付けて、無駄に金をふんだくるのも得意らしい。

「説明分1銀貨って高いな…」

と、心の中で溜息を付きながら、レンタは財布に手を突っ込んで、4銀貨をカウンターの机の上に置いた。

「…おぉ。あんた意外と金持ってるんだな。どうです、おまけでこの片手剣を…。」

オードが商売笑顔で片手剣を見せてくる中、レンタは用意していた袋に武器や装備を詰め込み、出入り口へと向かった。

そして、扉を開けながら、

「時間があったら、また来るぜ。」

と、言った。

ーー宿泊宿ーー

それぞれ買い物が終了し、三人は一室に集まっていた。

レンタは武器や防具を見せびらかし、ラヴィとフランダリは買ってきた物を床に並べていた。

床には薬草やMP及びHP及び状態異常ポーション、寝袋などが置かれる。

その他に食糧や木で作られた食器などがあり、街を出てから数週間は飢えないで済むだろう。

フランダリはレンタから弓を借りて、それをジロジロ見ていた。

「へぇ、これ中々良いじゃない。使いやすそうだし、遠距離攻撃や先制攻撃当てたら一気に優劣、弱肉強食が逆転するから、レンタの腕の見せ所よ。」

「遠距離攻撃だと腕なんか相手に見せれないけどな。」

「上手い事言わないの、レンタのくせに。」

あ、今のは少しイラッとしてしまった。

「フランダリは剣だから近距離攻撃だな。ゴリラ女の腕の見せ所じゃないか、良かったな。」

「…ちょっと撃ち試ししてみて良いかしら?」

「うぉぉい!撃つなよ…俺に向かって撃つなよ?」

「こらこら、喧嘩しないの。」

気持ちが熱くなっていると、ラヴィが喧嘩した子供を諌める様に優しく怒る。

その姿に、思わずラヴィに向かって両手の平を合わせて、

「ああ、俺の女神様はラヴィだけだー」

「レンタ、ちょっとそれどういう意味よ」

横でガルルと声を上げるフランダリを気にせずラヴィに向かって手を合わせていると、レンタはある事に気付いて左手をフランダリの方に向ける。

「お釣り残っただろ?全部返しなさい。」

フランダリは「え〜」と口を尖らせながら、文句を言う。

「え〜、じゃないよ。早く返しなさい。」

するとフランダリは溜息を付きながら、お釣りの3銀貨を渋々レンタの掌に乗せた。

しかし、レンタはある違和感を抱いた。

「なぁラヴィ。この生活品だけで5銀貨も掛かったのか?」

「いいえ、4銀貨ですわ。」

レンタは、その言葉を聞いてから、勢い良く首を横の女の方に向ける。

フランダリはレンタが向いた方向と同じ方向に首を向ける。

「フランダリ…4銀貨だってよ。」

「………」

結局レンタの粘りに白旗が上がり、フランダリは残りの1銀貨を支払う事になった。

武器買い替えが一人の老人と若女に金欲を生んだ今日この頃である。







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