第六話『ハーレムは遠い』

 「そういえば、レンタは人間族の勇者のラインハルト・アラガスタを倒す為に冒険者になったのよね。」

 宿の食堂でカツ丼と親子丼を食していると、フランデリが思い出した様に言った。

「そういえば、って曖昧だな、記憶…。」

「まぁ良いから良いから!勇者を倒す為に冒険者になったのよね。」

 レンタは思う所がありながらも、渋々頷いて肯定の意を表した。

 フランデリはレンタを納得させるまでに一苦労したが、ようやく本題を話し始めた。

「とすると、二人だけでは足りないと思うのよ。だって今の所、たかがスライムにも苦戦してるじゃない。そんなんで勇者討伐なんてへそで茶を沸かしちゃうわ。」

「たかがスライムに苦戦してるのはお前だけだろ。まぁ確かに、もう一人くらい強い冒険者を仲間にしておきたいよな。」

 親子丼の肉を口に入れながら中々噛み切れないフランデリの意見に、レンタが水で喉を潤しながら同調する。

 すると、またもや肯定の意を得られた事が嬉しいのか、フランデリが肉を飲み込まない内に話し出す。

「だっふぁら、はっほく、ひるどひ…うぇっほぇほ!」

「飲み込んでから話さないと喉詰まるぞー…ほら言ったばかりなのに。」

 フランデリが一旦唾液と一緒に肉を口に戻して、また飲み込むまで、レンタはその様子を冷ややかな目で見詰めていた。

 気持ちが落ち着くと、フランデリは改めて話し始めた。

「だったら、早速ギルドに向かいましょう!このパーティのメンバー募集はまだ続いて居るでしょう?酒場で焼きバカードリでも食べながら気長に待ちましょう。」

『焼きバカードリでも食べながら』の所が他の所より声が高くなっている。

「なるほど。焼き鳥が目的か。」

「え⁉…ち、違うけど〜?何を言ってるのかしらぁ〜…」

 痛い所を突かれたらしく、フランデリがわざとらしく口笛を吹く。

 レンタは一つ小さく溜息を付いて立ち上がる。

「じゃ、ギルドに行くからな。…フランデリも早く食って追いついて来いよ。」

「え、あ、待っ…。」

 フランデリはくっちゃべっていた為、親子丼を食べ切れていない事に気付く。

「…待ってよ〜!」

 ーー冒険者ギルドーー

「………来ないわねー。」

「…来ないなー。」

 冒険者ギルドの酒場に付いてから、約2、3時間。

 フランデリとレンタは仕方が無いので焼きバカードリを二人で貪っていた。

「やっぱりあれよ…勇者討伐となると気が引けるのね。さっきから掲示板に立つ冒険者の人見てるけど、私達の募集用紙見た人、皆一瞬硬直して他の用紙に目を通してるわよ。」

「それは指摘しないで欲しかったんだけど。」

 まあ、彼女の指摘も確かに最もだ。

 わざわざ勇者討伐をパーティ募集用紙に書き込む者も、そのパーティに入る者も世間から見れば『変な人』なのだ。

「でも、だとしたら、何故フランデリはうちのパーティに?」

「そりゃ勿論、私を入れるパーティが貴方のパーティの他無かったから。」

「…偉そうに言うなよな。」

 フランデリの胸を張った偉そうな態度にレンタが呆れた様な半目を浮かべる。

 その時だった。

「あの、勇者討伐のパーティの冒険者募集はここで間違いないかしら。」

「…はい!」

 どう考えても、パーティ加入希望者のセリフに顔を明るくさせて、後ろを振り向く。

「ちょっと…私の時と反応違くない?」

 と、フランデリがボヤいているが、それは気にしないでおこう。

 するとレンタは後ろに立つ、その女性に目が奪われた。

 髪は茶髪長髪、目は糸目。身長はフランデリよりも少し低く160cm後半くらい。

 聖者の祭服に包まれたその身体は、スタイルが良く胸はおおよそCに近いBと言ったところ。

 白いローブに黒いブーツ、右手には長い杖を持っていて、杖の長さは約90cm程。

 にこやかな笑顔を絶やさない彼女の表情は、柔らかい印象を与える。

「あーーっ!!」

 いきなりフランデリが、その女性を指差して叫んだ。

 女性の容姿に目を奪われていたレンタは、その突如襲ってきた叫びに耳を塞ぐ。

「うるさいな。どうしたんだよ、フランデリ。」

 レンタがその声の主に文句を言うと、女性もフランデリを見て驚いた様な声を上げた。

「あら〜、また会ったわね。確か昨日、宿のお風呂で掛け湯を通り過ぎて、風呂に入ろうとしてた子よね。確か…フランデリさん。」

 女性は、一つ一つ思い出しながら言葉を続けて言った。

「いや、恥ずかしいです。ていうか私、名前名乗りましたっけ。」

「うふふ。貴方、私が呼び止める前に、フランデリいざ行かん、って啖呵切ってたじゃない。」

 何時の間にかフランデリの黒歴史が一つ刻み込まれていた様だ。

 レンタはフランデリの首元を掴んで、自分の横に引き寄せてからこう聞いた。

「なぁ、フランデリ。…彼女、誰よ?」

「ああ、この人は昨日風呂場で偶然出会ったラヴィ・ア・サフレコフさん。」

「…そうか。」

 レンタは女性の名前を聞き出すと、フランデリを優しく床に降ろし、律儀に一礼してこう言った。

「こんにちは、そして御加入頂き感謝致します、ラヴィ様。これから宜しくお願いします。」

 フランデリは不満そうな顰めた顔を浮かべたが、ラヴィは意外そうにこう言った。

「あら…随分律儀なのね。女性を粘液だらけにして、辱めた人には見えないわぁ。」

 その言葉によって、ギルドに沈黙が訪れる。

「………うん?」 



 


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