第一章

第一話 『勇者になりたい!』と彼は言った。

 エドラス王国は今や魔族の二番の脅威とも言える聖王国であり一番の脅威とも言える勇者ラインハルト・アラガスタをも携えたまさに鬼に金棒の王国である。

 400年以上前に建国された王国で国民達の魔族への対策を普通より強化し、闇の魔力からの侵食を最低限に抑える光の鎧と光の剣を持った聖兵達も魔族からすれば大きな関門の一つである。

 そして周りには大きな森が広がっている。

 森に生息している魔物は平民でも倒せる様な弱小魔物ばかりなので門番や聖兵達によりとっくの昔に軒並み駆除されてしまったらしい。

 だから初心者冒険者達のほとんどは時々溜まって出る魔物達を倒して経験値を稼ぐか魔物を倒さず他の仕事でお金を溜めて何処か近くの街に馬車で移る人ばかりなのだ。

 さて、先程から魔物やら魔族やらという単語が飛び交っているが、まずそれが何なのかを説明していきたいと思う。

 魔族というのは人間族や妖精族等の五種族の一つに分類される種族の一つである。

 人口の殆どがスラドエ王国に集中している。

 闇、火、水、木、地、風、光属性の7つの全ての魔法のベースとなる七属性の内闇属性を含めた六属性を使用可能の優秀な種族であるが光属性の魔法だけは弱点である。

 魔族の男女の違いは人間の男女の違いとそう大差は無い。

 幼稚園と初等学級、中等学級、高等学級、大学ではそれぞれ基礎(初級魔法)、中級魔法、上級魔法、最上級魔法を学んだり魔族の歴史等も学ぶ事が出来るのである。

 次に魔物とはスラドエ王国が存在する魔界で量産され討伐レベルごとに様々な地帯に分散される生物及び非生物の形をした魔力を吸収したモノの名称を指す。

 魔界の魔力を吸収し続けた存在である為色々な意味で人々から恐れられている。

 冒険者が魔物を倒す事により冒険者にはその魔物の討伐レベルに比例する経験値という物を獲得する事が出来る。

 経験値というのは魔物の魂に止めを刺す事によって倒した魔物の魂の記憶の一部を吸収する事が出来、この経験値をある程度溜める事によってレベルを上げる事が可能。

 そしてある程度レベルを上げると冒険者はスキルという物を獲得する事が出来る。

 経験値は普通は目に見えないが『ステータス』と唱える事によってレベルや今獲得している経験値、覚えたスキルや各能力値などをまとめた青い色のパネルが目の前に現れる様になっているのだという。

 その魔族の中に一人人間が混ざっているのは皆さんご存知だろうか。

 その青年が本作の主人公レンタ・ダンカーである。

 ダンカーは16歳の男の子で現在高等学級に在籍中の、魔王ブラック・ダンカーの拾い児である。

 魔王城の最上階に住んでおり高等学級在籍中とは言ったが家庭教師を取っている。

 ある時、彼の家庭教師でありダークエルフのファリア先生が勇者の話をした事があった。

「聖界の勇者というのは我々にとって非常に恐ろしい存在だと言えるでしょう。その無数の勇者の中でも最も恐ろしいのがエドラス王国の勇者ラインハルト・アラガスタです。彼は様々な加護を持っています。竜巻の加護、聖水の加護などです。その中でも一番恐ろしいのが光の加護です。光はいとも容易く私達を貫きます。光を全身に浴びたら私達は溶けて無くなってしまいます。ですから私達は光を嫌うのです。もし魔族の中で勇者と言える人が居るならきっとそのラインハルト・アラガスタを潰し消し去ってくれる人でしょう。それが私達の共通の願いであり夢の夢なのですからね。」

 その一言で勉強を無心で受けていた心にマッチで火が付いた。

「勇者…!魔族の勇者…か…カッコイイ!」

 ファリア先生は次の話題を話し始めていた為レンタの目に火が付いたのを気づくのに少し時間が掛かった。

「先生…」

「うん?どうしましたか?」

「僕は魔族の中の勇者になりたい!」

 何時の間にかレンタは大声でそんな事を口走ってしまっていた。

 「本当に行くのか?レンタ。」

「はい!もう僕は決めたのです、父上。」

 魔王城の最深部で魔神軍最高幹部達が見守る中決意を固めた青年とオドオドして何とか説得しようとしている魔王らしくもない魔王がそんな会話を続けていた。

「し、しかしだなぁ。それは自立するという事でだな、もう殆ど会えなくなるかも」

「そんなのどーってことないです。ご安心を。」

「ど…!?」

 彼の「どーってことない」の単語に激しくガッカリする魔王ブラック・ガーターの姿に苦笑いを隠しきれない最高幹部達。

「し…しかしだな、勇者になるとなるとあの王国に乗り込むという事なんだぞ。それは危険すぎるのでは〜無いかなぁ。」

「大丈夫です。鍛えます!」

 いちいち反論される魔王と無茶な事を本気にしている子供の言い争いの図。

「だがなぁ…そうだ!自炊、自炊だよ!お前自分でご飯とか作れんのか?母さんの味が恋しくなるぞぉ。」

「その分昨日沢山食ったから多分大丈夫です。料理本も一応持っていきます。」

「ぐぅ…準備万端だな、良い事だ…。」

 反論されなかった事に対し肯定の意を受けたと感じたのかレンタは「じゃもう行って大丈夫ですね。」と言った。

「レンタ待っ…アズベラ!何とか言ってやってくれ!」

 アズベラと呼ばれた最高幹部は冷静な目でブラックとレンタを交互に見て言った。

「まあ良いのでは。子供は育ちいつかは必ず自立するものです。遅かれ早かれ。それが少し早かったぐらいで何ら問題は有りませんわ。」

「なっ…」

 アズベラからも許しを得たレンタは顔をパッと明るくしてさらに決意を固めた。

「では行っても良いのですね。」

「あーと…よし分かった!行っても良いが、手紙を定期的に寄越す事となるべく早めに魔王城に帰ってくる事!この二つを約束したまえ。良いな。」

「はい!」

 その様なやり取りを経てレンタは荷物をまとめ竜車に乗り王国を後にした。



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