ブドウパン食べたい
青いカラスが飛び上がるのと、フィエリテが振り返ったのは同時のことでした。
「え?」
フィエリテは、フルールを見て言葉を失いました。ヴェリテはフルールの肩にそっととまりました。エフォールは、じっとフルールを見ています。フィエリテはようやく声をふりしぼりました。
「┅┅あなたは?」
フルールは、ただフィエリテを見つめています。
「┅┅┅┅。」
宝石の花園は静けさに包まれました。
「いいにおい。ブドウパンのにおいだわ」
フルールは無表情のままに言いました。
「へ? はい。ぼくはパン屋の者です。フィエリテといいます」
フルールは少し無言になりました。
「ブドウパン、食べたい」
フルールは無表情のまま、言いました。
「ほえ? はい!」
フィエリテは馬のエフォールにつんだ荷物から、ブドウパンと水を出しました。ブドウパンと水の袋をフルールに手渡すと、フィエリテは笑顔になりました。
「街一番のポポンベーカリーのブドウパンです。めしあがれ。でも、ないしょですよ」
フルールはブドウパンをひとくち食べました。フルールの目玉が、大きく丸くなりました。そして、フルールは水を飲んではブドウパンひとつを完食しました。
「おいしい。あ。ヴェリテ、ごめんね。ブドウパン、ぜんぶ食べちゃった」
フルールの肩でヴェリテはしょんぼりしているように見えました。
フィエリテは、もうふたつのブドウパンをフルールに渡しました。
「┅┅食べてください。青いカラスさんも」
フルールは言いました。
「フィエリテはいい人ね」
フルールはブドウパンをぱくぱく食べて、ヴェリテもパンをつっついて食べました。
しばらくして、フルールはフィエリテにお礼を伝えました。
「すんごいおいしかったわ。ありがとう。ヴェリテも大喜びよ。フィエリテ、ここの宝石を好きなだけ持って帰っていいわ。お馬さんの荷物を、宝石にすべてかえておしまいなさいな。あなたは大金持ちになるわ」
フィエリテは笑顔でしっかりと答えました。
「それはできません。エフォールの荷物は、村の学校の子どもたちがとても楽しみにしている給食のブドウパンです。ぼくは子どもたちにブドウパンを届けたいです」
フルールは、はじめて表情をかえました。
とてもビックリした顔です。
フィエリテは少し顔をあかくしました。
「あ、でも。ダイヤモンド。小さなダイヤモンドが欲しいです。┅┅ぼくは結婚式をあげるのですが、指輪が買えないのです。ダイヤモンドの指輪を愛するパトリに贈りたいです」
フルールは、ヴェリテに告げました。
「ヴェリテ。オレンジダイヤモンドを持って来てちょうだい」
青いカラスはすぐさま飛び立ちました。
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