童話 「フルールの瞳」

坂井 傑

宝石の花園 ~月の夜風~

フルールは宝石の花園の女神です。フルールの髪は長くて、金色に輝いています。フルールの瞳は、深い緑色をしていました。フルールは、それはそれは美しい女神なのです。

月光に照らされた宝石の花園に、夜風が渡って行きました。宝石の花は、宝石を咲かせる不思議な花です。宝石の花が散ったあとには、宝石が残されました。宝石の花園は、たくさんの宝石が光り輝いているのです。

フルールは白い服をまとっていました。月光の中、フルールはその片腕を上げました。

すると、どこからか青いカラスが舞い降りて、フルールの腕に止まったのです。フルールは、歌うように言いました。

「ヴェリテ。知っているわ。この花園に、人間が入り込んだことは」

ヴェリテ、青いカラスはフルールの使いです。ヴェリテはフルールをじっと見つめました。

「┅┅大丈夫よ。心配しないで、ヴェリテ。月の光を楽しみましょう」

フルールは月を見上げてほほえみました。

星空に、ひとつの流星が走りました。


男性の名前は、フィエリテといいます。フィエリテは、銀色の髪に黒い瞳のきれいな青年で、とても働き者でした。フィエリテはパン屋の下働きをしながら、吟遊詩人になりたいと夢に見る若者です。次の日曜日に愛し合っている街娘と結婚することが決まっていて、最近のフィエリテはとてもやさしい顔つきをしていました。フィエリテはとなり村までブドウパンを運ぶ途中、この宝石の花園に入り込んでしまったのです。

ブドウパンのいっぱい入った革の袋は、フィエリテの馬にくくりつけてありました。フィエリテの馬は、不思議な花園で少しも動こうとしません。

「┅┅ここは、どこだろう。ぼくはいつもの道を来たはずなのに。エフォール、ここは何なのだろう。┅┅とても美しい世界だけれど」

馬のエフォールは、ぶるるっとふるえました。

フィエリテは馬から降りました。

月の光にきらめく宝石の花園で、フィエリテは驚きの声を上げました。

「ほ、宝石だ。┅┅宝石の花だ。こんなにたくさんあるぞ。うわ、宝石で地面が見えないほどだ。王様に、いや、ぼくは誰にこの場所を報告すればよいのだろう。やはり、ポポン店長だろうか」

エフォールは、勝手に歩き始めます。

「おい、待ってくれよ。エフォールってば」

フィエリテはあわててエフォールを追いかけます。

「待ってったら。なあ、エフォール!」

すると、馬のエフォールは突然ぴたりと動かなくなったのです。エフォールの背中に、鳥がいました。それは、青いカラスでした。

「何だ? 青いカラス?」

フィエリテは立ちつくすだけです。月光の花園に、風が流れました。

「ありがとう、ヴェリテ。こっちへいらっしゃい」

フィエリテは、びっくりしました。うしろからとても美しい女性の声がしたからです。





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