第5話 ごっこ遊び

 影が落ちた部分だけアスファルトが薄く青に色付いて見えるのは、その周囲が夕焼け色に染まっているが故の錯覚だ。

「さっきは助けてくれてありがとうね助手くん。まさか逃げながら転ぶとは思わなくて慌てたけど、君が引き起こしてくれたお蔭でスリリング程度で済んだよ」

「あんなのは当然の業務です、俺は助手なので。礼を言うくらいなら咄嗟のときに足が絡まらないよう運動なり何なりしてくださいよ」

「了解、了解。考えておくよ。いやあ、それにしてもさすが私の助手だ、辛辣だけど頼りになるね! 明日も明後日も来年も、この先ずっとその調子で私を守ってよね」

 小言を受け流しながらにっこりと笑って隣の不機嫌面を上体ごと覗き込めば、彼は眉間の皺を更に深くしてそっぽを向いてしまった。ああ、しかしそれは悪手なのだよ助手くん。その明け透けな嫌がり方に私の頬は思わず緩むし、尚更君を構うのを止められなくなってしまうのだから。

 助手くんにとっては災難なことだろうけれど残念ながら私には鍛える気など微塵も無ければ、彼との別れがいつ来ても良いと、むしろそれに付随するものの存在を始めから知っていたし待ってさえいた。だからこそこうして未来を語る行為が好きなのだ。共に歩む無彩色の道があたかも鮮やかに見えているかのように振る舞うのは、なかなかに愉快な遊びだった。

「当然だって言ってるでしょう。それよりアンタも殺されない努力をしてください。態度についてもなんですからね!」

 じゃれて繋ごうとした手を素気無く振り払うわりには歩幅を合わせて歩いてくれるのだから、助手くんはやはり見込んだ通り根っからのお人好しで、そんな彼が私に執着したせいでさらりと嘘を吐くようになっている現状が面白くてならない。彼にもまた色味の無い道が見えているはずなのに、まるで鮮やかであるかのように、いつまでも続くかのように語るのが素敵だった。

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斯くして探偵助手 カグー。 @kagoo

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