好きな曲が、好きな人の、好きな曲。
@ren_11so
第1話 夜のまち
「お前、彼女欲しいとか思わないの?」
同じような質問は何回もされた事がある。
色んな人に、色んな場所で。
「欲しいけど、今はいいかな。」
「できたらめんどくさそう…。」
毎回ありきたりでテキトウな返事をする。
単純に面倒だから、その質問そのものに興味とか関心がないから。
でも、深く考えてみたとき、その問いにもっともらしい答えを自分の中で導きだした。
「彼女が欲しいとは思わない。まず順序として、好きな人ができてから、その人を彼女にしたいと思うはず。」
なんだか僕の中では、「彼女が欲しい」という表現はどこか "誰でもいいから" という意味合いが込められているようで。
であるから、中でも「彼女募集中」のような表現は個人的に好きではない。
そうして自分の中でそれっぽい論理を展開するが、今現状自分にその感情、すなわち「誰かを好きな気持ち」なんてものは存在していない。
そんなことより、僕は次の仕事を見つけなくちゃいけない…!!
僕は先月、勤めていた会社をやめた。
つまらなかった。なにもかも。
仕事の内容どころか、まち全体が何もなくてつまらない。
地元から離れて就職したため、これまで仲良くなった友人とはしばらく会えなくなってしまい、退屈でつまらない環境で半年間過ごした。
よくもまあ半年も持ったなと。我ながら感心することもしばしばある。
しかし、何も考えずに帰ってきたはいいが、いつまでもスネをかじる訳にはいかない。かじるスネにも限界があるのだ。
今度こそは自分に合って、なるべく楽しく仕事できる環境がいい。
そう思いながらズルズルと2週間が経ったころである。
募集を眺めている中で目に止まったのは、キャバクラやラウンジのボーイだった。
もちろん経験などない。どんなことをするかもよくわかっていない。
最も重要視した自分に合っているか、楽しく仕事できる環境であるか、これについても不透明でなにもわからない。
ただ、興味はあった。
たったそれだけで応募なんてするだろうか。
一般的にはどうだろう。
ただ僕の性格上、考えよりも行動が先導してしまうもので、見た中でも待遇や環境が良さそうなラウンジを選び応募した。
思っていたよりも着々と話がすすみ、無事に仕事が決まった。
一通りあいさつや会社の概要を聞いたあとは、いきなりホールでの業務だった。
接客すら未経験だったが、持ち前の拙いコミュ力でなんとかその日を無事に終えた。
いや、無事ではなかったかもしれない。
時間が経つのは早く、あっという間だった。
これこそ、自分にとって理想的な環境だと確信した。一日目だったが。
業務になれていくと、徐々にお店の女の子の名前を覚えはじめた。
来てすぐは頭がいっぱいいっぱいで気付かなかったが、僕が配属されたそのお店は、可愛い子が他店よりも多いように感じた。
しかし、それは恋愛感情に結び付くことはないように感じた。
自分を含め他のボーイも仕事だと割り切れているようだったからだ。
そしてももう一つ決定的な理由は、飲み屋共通の絶対的なルール、風紀(ボーイとお店の女の子の交際)の禁止である。それは業界の中だけでなく、一般的によく言われているというのもあり、元々知ってはいた。
知ってはいた、
し、
そんな感情を抱くなんて、思ってなかった。
玲奈。
年は僕の一個上で身長は小さくてお店の中ではまあまあ人気の子である。
年が近いというのもあり、待機中や営業の前後はよく話しかけてくれていた。
酔うと余計かわいくなるタイプの子だった。
たくさん話すうちに、こんなことを聞かれた。
「カヤくん、彼女は欲しくないの?」
好きな曲が、好きな人の、好きな曲。 @ren_11so
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