第8章
僕はルイスのもとを訪れた。
「こんにちは、ご無沙汰してます。」
「ナイズくん、久しぶりだね。どうかしたかな。」
彼は以前と変わらない優しい声で僕を迎えてくれた。
「実は、妹のエリアが“エルダースノウ”に行きたいと言い出しまして。」
「ほう、エリアちゃんが。君たちには、エルダースノウの話はしたことがなかったが、誰かから聞いたのかな。」
「そうですね、フィンが両親から行くよう勧められ、エリアにも誘いが来たというわけです。」
「なるほど、彼は1人で行くのが不安で、彼女も誘ったというところかな。」
「当たりです。」
ルイスのもとには、3人でよく来ていた。彼は僕たちのことをよく知っているのだ。
「そこで、相談があるのですが…。僕には力がない。だけど僕もどうしても力が欲しんです。ずっと小さいときから思っていました。エリアやフィンが羨ましかった。どうして僕だけ、力がないんだろうと。……ルイスさん、“ジャム”について教えていただけませんか。」
自分の中にあった感情をこんなに素直に誰かに伝えたのは初めてだった。
本当はこんなこと言うつもりはなかった。だけど、ほんとは誰かに話を聞いてほしかった。両親には言えなかった。悲しませると思ったから……。
ルイスは僕から“ジャム”という言葉が出てきたことに驚いていた。
「その言葉をどこで…?ジャムを受けるつもりじゃないじゃないだろうね?」
「この言葉は、エリアが旅の方から聞いたと言っていました。僕はこの話を聞いて、変われると思いました。今まで劣等感ばかり感じている自分が嫌で、何をしたって変わらない。どうしたって埋められない差があるとずっと思っていた。力が使えるようになっても何も変わらないかもしれない。だけど、力を得ることで、僕はスタートラインに立てると思ったんです。だから…もし何か知っているのであれば、教えていただきたい。お願いします。」
変われない自分が、何もできない自分が一番嫌いだ。
変わるためには、自分で動くしかないから。
僕の言葉を聞いた彼は、参ったといったような表情だった。
「君にそんな強い感情があったなんてね。君は昔から聞き分けがいい、わがままを言わない子だと思っていたが、私たちがそうさせていたのかな。すまないね。」
彼が謝るようなことではなかった。僕は自分の内の感情を誰にも話したことがなかったのだから。
「私たちは決して君に、力のない者に意地悪しているわけではないんだ。“ジャム”について話したがる者がいないのも、書物に残っていないのも、だれもその話をしないのも……訳がある。」
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