第2章
父の病が発覚し、1週間が経った。
母は父の部屋で1日のほとんどを過ごしていた。
ダイニングで僕と妹は食事を済ませ、お茶を飲んでいた。
「私首都で働きたい」
僕は彼女の言葉に少し驚いたが、冷静に言葉を返した。
「首都って…力を一瞬使っただけでも倒れてしまうエリーにできる仕事があると思っているのか?」
首都には力のあるものしか入れない。働けるのは力を自由にコントロールできるものだけだ。たとえ強い力を持っていても、使いこなせなければ働けないのだ。
「今のままじゃ私にできる仕事はないわ。…ナイは知ってる?この力が''ネージュ''と呼ばれていること。ネージュを持っている者だけが通うことができる学校があること。」
「ネージュ…そんなような呼ばれ方をしているのは知っていたが……学校があることまでは知らなかった。」
「そうよね、私も知らなかったわ。フィンがそんなことを最近言っていたの。彼、その学校に行くように両親に言われているみたいなんだけど…」
フィンは隣に住んでいる幼馴染だ。
ネージュを持っているが、臆病で泣き虫。
「一人で行くのが不安だから、エリーも一緒に行かないか…といったところか。」
「ええ、そのとおり。今までネージュを使いこなすなんて無理だと思っていたし、使いこなせるようになりたいなんて思わなかった。でもね、お父さんが''ユイスト''になって思ったわ。私のネージュでお父さんを治してあげたい…ってね」
妹のエリアは、特に治癒力に長けていた。
ネージュといっても種類があり、使う者によって得意不得意もあるのだ。
エリアは医学の勉強に熱心で、将来は村で病院を開きたいと言っていた。
僕はそんな妹をかっこいいと思った。同時に僕はなんて無力なのかと思い知らされるのである。
ネージュを持っていないことを補いたくて勉強も、運動もできることはなんでもした。だけど僕は、何かをやりたいと思えなかった。自分は何をしたいのか見つけられなかった。
今回のことだってそうだ。
僕はいつだって''力がないこと''を理由に何もできない。
妹に対する劣等感を埋められないのだ。
「そうだったのか…じゃあエリーはその学校に行くのか?」
「そうしたいなって思ってる。それとナイに伝えたいことがあるの。ナイは…''力のない者''が力を手に入れられる可能性があること、知ってる?」
彼女から発せられた言葉に、僕は今まで眺めていた本を閉じて彼女の顔を見た。
「…そんなこと……できるのか?」
考えたこともなかった。力は生まれつきのものだとばかり思っていた。
体の中が熱くなるのを感じた。
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