魔法使いの飼い猫
魔法使いローゼンタールは、山奥の誰にも見えない屋敷で猫を一匹飼っていました。魔法使いの猫ですからもちろん黒猫、それも闇夜よりなお黒い毛の猫です。
ローゼンタールは黒猫をたいそうかわいがっておりましたが、魔法の研究室には決して入れようとしませんでした。
ですが、誰にでもうっかりはあります。ある日、ローゼンタールは研究室の鍵魔法を掛け忘れてしまったのです。気付いた時にはもう遅く、イタズラ好きの黒猫は棚の魔法薬の瓶をすべて落として割ってしまいました。いくつもの魔法薬が流れて混ざり、ボン! 爆発が猫を巻き込みました。
魔法使いは慌てて猫に駆け寄ります。すると、どうでしょう。闇夜よりなお黒かった毛が、鮮やかな緑に変わっていたのです。
「なんてことだ……だが、これだけで済んで良かった」
ローゼンタールは猫を檻に入れると片付けに取りかかりました。手始めに割れた瓶を魔法で直し、棚に並べます。すると、何故か緑の猫がまた棚に座っているのです。
「おやお前、どうやって出てきたんだい」
ローゼンタールはもう一度猫を檻に入れました。ところが、緑の猫は檻の隙間からにゅるにゅると這い出してきます。まるで水を含んだ粘土のようです。
「なんと、そんな狭い所を通るとは……困ったものだ」
魔法使いは猫に笊を被せました。猫は笊から水が漏るように、網目から這い出しました。その上に魔法使いが鉄で出来た継ぎ目のない缶を被せましたが、猫は缶と床の、目に見えないほどわずかな隙間を抜け、ついでに扉の下も潜り抜けて外へ逃げてしまいました。
ローゼンタールも外に出ましたが、猫はもうどこにも見当たりません。一日中探しても見つからず、次の日から山を下りて方々歩き回りましたが、やはり猫が姿を現すことはなかったのです。
魔法使いローゼンタールは今も緑の猫を探して世界中を旅しています。もし、どこかの家で水槽から魚が一匹減ったり、壁に爪とぎの跡がいつの間にかついていたとしたら、それは緑の猫の仕業かもしれませんね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます