炎の馬
海の向こう、高い山がたくさんある国のお話です。
ある日、しばらく噴火を忘れていた火山の火口から、炎の馬が生まれました。たてがみから尻尾の先まで、全身がゆらめく炎で出来ています。駆ける速さといったら溶岩が山肌を流れるよう。蹄の跡からぶすぶすと黒い煙が立ち昇り、運悪くたてがみの掠めた木葉はみんな焦げてしまいました。
そんな馬が下りてきたものですから、麓の村は大騒ぎ。畑の作物が焼けてしまいますし、うっかりすれ違えば大火傷を負います。さっさとどこかへ行って欲しいのですが、炎の馬は我が物顔で村を闊歩しています。
「ニンジンか何かで気を引けないだろうか」
村人たちは顔を寄せ合います。
「ダメだ、普通の野菜じゃ見向きもしない」
「炎の馬だ、炎の野菜を食べるんじゃないか?」
「そんなもの、どうやって作るんだ」
「ニンジン型のランプを作ってみよう。灯りを灯せば火で出来たニンジンに見えるだろう」
そこでガラス職人が細長いランプを作りました。台座はニンジンの葉を模した鉄製で、火を点けると煌々と輝いて、少し離れれば炎のニンジンに見えます。
村で一番腕っぷしの強い男が、ニンジンのランプに長い鎖を付けてぐるぐると振り回しました。すると、灯りにつられて炎の馬が姿を現します。男が勢いのついた鎖を手放すと、ニンジンのランプはひゅうっと音を立てて山の頂上へ飛んでいきました。炎の馬は後を追い、村から出て山を駆け上ります。
村人たちはひと安心。口々にガラス職人と腕自慢の男を讃え、お祝いの宴会が三日三晩続きました。
さて、炎の馬とニンジンはどうなったでしょうか。実は、あまりに勢いのつきすぎたニンジンのランプは山に落ちず、雲を越え、太陽を越え、天の果てを目掛けて今も飛び続けているのです。そして炎の馬も雲を飛び越え太陽も飛び越え、ずっと炎のニンジンを追って空を駆け続けているということです。
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