眠れぬ夜のおとぎ話

士鶴香慈

海のソーダ水

 海の見える小高い丘に、赤い屋根の小さいカフェがありました。ある日、カフェの店長が海辺を散歩していると、人魚が砂浜に打ち上げられてしくしくと泣いておりました。かわいそうに思った店長は、人魚を海まで運んでやりました。

 人魚は言いました。

「ありがとうございます。お礼を差し上げますので、少し待っていてくださいな」

 人魚はきらめく尾ひれで海面をパシャリと打ち、潜っていきました。

 店長が待っていると、人魚が戻ってきて小瓶を手渡しました。真珠貝の内側が貼られた小瓶で、太陽の光で虹色に輝いています。中になにか入っているようで、カラコロと音がします。

「その小瓶には深海の一番深いところで育った真珠が入っています。その真珠を真水に一晩浸けてご覧なさい。とても美味しいソーダ水ができますよ」

 店長は小瓶を持って帰り、グラスに真水を入れて真珠を中に落としてみました。真珠は深海をぎゅっと集めたように深い深い群青色で、グラスの底に沈みました。

 次の朝、グラスを見た店長は驚きました。透明だったはずの水が青くなっていたのです。一番上は薄い水色、下にいくほど青が濃くなって、一番下は真珠と同じ群青色です。

 おそるおそる一口飲んでまたびっくり。ただの水がソーダ水に変わっていました。それも、とびきり甘くてとびきりシュワシュワする、美味しい美味しいソーダ水です。

 店長はそのソーダ水にバニラアイスとさくらんぼを盛り付け、「海のソーダ水」としてメニューに加えました。綺麗で美味しい海のソーダ水は飛ぶように売れ、カフェはたいそう繁盛したということです。


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