第3話

その日の出来事をきっかけに、廣瀬とはたまに話をするようになった。


ただ話をすると言ってもバスに乗っている間だけで、それも基本は各々好きなことをして過ごしていたため

一緒にいるほんの数分間でさえ、静かな時間が続いたりもした。



しかし不思議と嫌な感じはせず、あんなに苦手だった沈黙も、いつからか心地良いものへと変わっていた。




「またそれ読んでるの?」



バスの中、オレは音楽を聴いたり動画を観たりと、その時々違ったことをして過ごしていたが

廣瀬はいつも同じ小説を読んでいた。



「うん、ボク読むの遅くて」



ずっと下を向いていた顔をこちらへ向けると、はにかみながらそう答えた。



「どんな話なのそれ」


「えーボクからは言えない!綾ちゃんが自分で読んで欲しい!」


「めんどくさ、教えてよ」


「だって、どんな話かなんてそんなの捉え方次第だよ、人によって変わっちゃう」



「綾ちゃんも読んでよ、それで答え合わせしよう」



…答え合わせって、

オレは活字苦手だって言ったのに。


大体、


「大体その小説、2巻まであるんでしょ?そのペースだと次の巻いくのに5年はかかりそうだけど…答え合わせも随分先になっちゃうね」


「うわ嫌味!そんなにかからないです~

ていうか、綾ちゃんだっていつも同じ曲聴いてるじゃん、飽きないの?」


「それとこれとは別、オレ1回気に入るとずっと聴いちゃうんだよ」


「そういうところ意外だよね、すぐ飽きそうなのに」


「…廣瀬のオレに対するイメージってどんななの?」



時々、こいつから見た自分は一体なんて奴なんだと思う時があった。



「え~なんかあんま他人に興味なくてつーんってしてそうで、結構飽き性ぽく見える」



不本意だけど、少し分かる気がしてしまって、何も言い返せない。



「でも本当は」



「スクール内で浮いてる人間とも話してくれる優しい人、でしょ?」





…なんだそれ。




「…何、浮いてるって 自分のこと言ってるの?」


「うん!」


「…廣瀬って、ほんとによく分からない……」


「そう?全然単純な人間だよ~」


「…そういうところね」



ピンポーン


『間もなく△△~△△~』



廣瀬がいつも降りる場所へバスが停車する。


オレはバスを降りるまでまだ数分ある訳だか、いつもここからが長く感じていた。

きっと気のせいなんだろうけど。



「じゃ、またね」


「うんまた…っあ!」

そうだ、と言い

廣瀬は何か思い出したかのようにこちらを見た。


「そういえばボク、この間綾ちゃんが好きそうな曲見つけたんだ

○○っていうバンドの曲なんだけど…時間がある時にでも聴いてみて!」


そう言い残しバスを降りていく廣瀬を、騒がしい奴だなと思いながらも


時間はあるし、

折角なので、持っていたスマートフォンで検索して聴いてみる事にした。





実際、曲は凄く自分好みで



何故かそれがちょっと悔しかった。




オレもあいつが好きそうな小説を見つけたら、教えてあげようかな、なんて。


考えながら、家路をたどった。





「ふんふんふーん♪」



自宅に着き、リビングでその日廣瀬から教えて貰った曲を口ずさんでいると、

バイトが終わり丁度帰宅したばかりの姉が話しかけてきた。


「ねぇそれ○○の曲でしょ!あんた好きだったんだ!私も好き~」


「え?あーいや……人から教えて貰って」


「ふーん友達?趣味合いそう~」





……友達?




友達、なのか。



「……」





少し、考えてしまった。




友達、と呼ぶには知らない事が多過ぎて。


かといって


知人、と呼ぶにはどこか寂しく感じてしまって。




「…友達かぁ」




廣瀬にとって自分は



『友達』



だったかな。

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