第4話 2人きりの誕生日

 今日は私の誕生日、今年はいつもと違う。両親は忙しく毎年家の者達に祝ってもらっていた。


 でも、今年は先生エリックが私の誕生日を盛大に祝ってくれると言ってくれた。


 嬉しいんだけど……ただ、心配な事がある。それは……。


「はぁ〜、祝ってくれるのは良いけど。何も起きなければ最高なんだけどなぁ。先生エリックがくるたび絶対何かあるし……」


 そう考えながら、私はテーブルの上のハーブティーを一口含みクッキーを頬張っていた。


 すると扉がノックされ先生の声がした。


 私はまた何かあるかもしれないと恐る恐る扉に近付き開けると、そこには先生エリックがいて、白いスーツに胸には白と紫の花のコサージュが飾られ、手には彩どりの花束を抱え立っていた。


「やあ、マリエラお誕生日おめでとう」


 私は先生エリックの周りをキョロキョロと見渡した。そうまた何かトラブルが起きる要素が先生エリックの周りにあるのではと思ったからだ。


「……ん?今日は珍しく何も無さそうね」


 でも見渡してみるが、何も起きる気配はなく私は先生エリックを中に入れた。


「いくら何でも、流石に何も起きないと思うが……」


 私は先生エリックをテーブルに案内し席についた。


 ……今の所何も起きないけど。このまま何も起きないと言う保証はない……


 私はそう思いながら、先生エリックを見ていた。


 そして誕生日ケーキやお祝いの料理をメイドが運んでくると2人きりの誕生日会が始まった。


「マリエラ改めてお誕生日おめでとう」


 先生エリックは私の目の前に黄色い紙で包装され赤いリボンで結んである小さく四角い箱を差し出した。


「マリエラ。プレゼントフォーユー!」


 先生エリックは満面の笑みで言い、私はそのプレゼントを受け取った。


先生エリック、ありがとう。開けてもいいかな?」


「ああ、構わなよ」


 先生エリックは私が箱を開けるのをワクワクしながら見ていた。


「じゃ、開けてみるね」


 私はプレゼントの箱を開け中をみた。そこにはオルゴール付きの可愛い小さなクマの置物があった。


「うわぁ〜、可愛い。先生にしては珍しくまともだね」


「ん?そうか……」


「うん、うん」


 私はそう答えながらオルゴールのクマを箱から出しテーブルの上に置くとネジを巻き音を出した。


 するとそこから流れてきた曲は……


「先生!?な、何なのこの曲はぁ〜!!!!!」


 そうそこから聞こえてきた曲は、とても曲とは思えない程の雑音。いや一種の呪いの曲ではないかと思うほど酷かった。


 私は慌ててネジを巻き戻し音を止めた。


「何って、俺が演奏した曲を魔法を使い、このクマの置物に収録したモノだけど?」


「あのね!はぁ、先生の気持ちは分かるんだけど。流石にこれ無理……」


「ん?そうなのかぁ。意外と自信あったんだけどなぁ」


「先生、このクマの置物はありがたく頂きます。だけど、流石にこの曲は外して欲しいかなぁ」


「ああ、そうだな」


 そう言うと先生エリックはクマの置物に手を乗せ詠唱を始めた。すると部屋が急に揺れだした。


「な、何これ!?先生いいからその詠唱やめて!」


 だが、夢中になり先生エリックの耳には私の声が届いていなかった。


 その揺れは段々と酷くなり、揺れと共にクマの置物が徐々に大きくなっていた。先生エリックが詠唱を終える頃にはそのクマの置物は部屋の天井を破壊しつくし外まで突き抜ける程に大きくなっていた。


「……先生……ええっとね。これどうするのかな?」


「ハハハ、何でこうなったんだろうな?確か俺は解除の呪文を唱えていたはずだったんだが」


「……ねぇ。先生、まさかと思うけど。元々このクマの置物って大きかったのでは?」


「あっ!なるほど。それで大きくなったって訳かぁ」


「それで、このクマの置物どうするのかな?」


「ん〜、そうだな。確かに何とかしないとな」


 そう言うと先生エリックは詠唱を始めると、術式が浮かびクマの置物は小さくなった。


「フゥ、これで何とか大丈夫だろう」


「……でも、先生。……これどうするのかな?」


 そうクマの置物は小さくなったが、部屋はメチャクチャで、もちろん誕生日ケーキもお祝いの料理も食べられる状態ではなくなっていた。


 すると追い討ちをかけるように急に外が暗くなり雨が降り出してきた。


 そして、私と先生エリックの楽しいはずの2人きりの誕生日会はいつものように幕を閉じた。

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