第63話 帰路 3
「おーい、お前なんなのあの大美人は? 」
涼介の問いかけを皮切りにみんなからの鬱陶しいほどの追及が続いた。
彼女は会社の同僚だとは説明すると、涼介や夏目などは心底羨ましがっている様子で、俺は優越感に浸ることが出来た。
俺からすればビーンズグループの大幹部である涼介の置かれた立場の方がよっぽど羨ましく思うのだが。
歌川さんにはよく憂鬱な気分にさせられたが、今日ほど誇らしげな気分にさせてくれた彼女に感謝を感じる。
涼介や夏目からこんな事でしか優位に立つ事の出来ない自分を全く不甲斐ないとは思わない。
良い機会だから二人をもっと羨ましがらせておきたいと思い、歌川さんの個性的過ぎる性格の事は伏せておいた。
スタイルももの凄いんだぞと言いかけたが止めておいた。後ろに居る里香ちゃんに悪印象を持たれては叶わない。
もし俺が彼女の下着姿を見た時の事を話したら、こいつ等は羨ましがり過ぎて発狂するだろうと思うと可笑しくて、独りでこっそりほくそ笑んでいた。
「彼女、夏目と違う意味で対人関係が面白そうだな」
恭也が運転しながらコソッと俺に言った。ズバリと核心を突く発言をした恭也に俺は心底驚いた。流石の恭也。モテ男恭也。女慣れ一番の恭也。
俺はみんなに気づかれないように黙って頷いた。
歌川さんの話が続くがそんなことよりも俺は明日の日曜日に何とか里香ちゃんをデートに誘いたいと思った。何故なら俺はもう臨時雇用とは言え就職しているのだから。
ただみんなのいる前で誘うほど馬鹿ではない、かと言って、帰ってから後でこっそり電話を掛けて誘うのも何だか姑息な気がする。
「君たち明日は何か予定でもあるの? 学生だから勉強かい? 」
丁度いいタイミングで涼介が三人に訊ねた。
三人は明日サークルの集まりがあるのだという。
俺は思い切って誘わなくて良かったと思いながらも明日はお土産渡し巡りの日になるのかと少しガッカリした。
天体観測の集りで舞ちゃんと夏目は知り合い、そして付き合う事になったと話し始めた。俺の中では割とどうでも良い夏目と舞ちゃんの馴れ初め話が続いた。
帰りの到着が近づくにつれただこのまま帰って全員解散というのも少し寂しい気になったところへ恭也が夕飯をみんなで食べて帰ろうと提案したので俺は嬉しくなった。
「中華奢ってくれよ。このあいだ食べたところの」
俺は恭也に言うと恭也は直ぐに「そうだな、みんなで行くか。高速下りたら電話いれてみるよ」と答えた。
それを聞いて後ろの席から歓声が上がった。
店に着くと俺たちは個室に通された。
「凄く高そうな店だねー」
夏目が嬉しそうにはしゃぐ。恭也は一番高いコースを注文してくれた。
みんなで食べる中華料理は美味しく、楽しかった。里香ちゃんが美味しそうに食べる姿はとても可愛かった。
中華料理店で恭也と涼介は夏目たちに自分たちの名刺を渡していた。
学生グループ全員のテンションがマックスになり俺は再び疎外感に襲われた。
里香ちゃんを見ると彼女も目をキラキラさして英雄を前にしたように恭也と涼介を見ている。
今ここで俺も名刺を渡せばウケ狙いに思われるのだろうか? さすがに臨時雇用とは書かれてはいないが。
「じゃあ、ホイ」
涼介が俺の目の前に名刺を差し出して来た。目の前の涼介の手と名刺が鬱陶しく感じ俺は舌打ちと同時に乱暴に引ったくった。
「はいよ」
恭也が俺の顔ギリギリに名刺を見せた。
「ちけぇよ! 」
俺はもう一度舌打ちして名刺を分捕った。
食事が終わり夏目が舞ちゃんと里香ちゃんの二人を送って行くと言うので、三人を駅で降ろした。里香ちゃんを部屋まで送るのは俺の役目なのにという思いで三人の後ろ姿を見送った。名残惜しいにもほどがある。
「残念だったな」
涼介が俺の気持ちを見透かしたかのように言った。
俺はドキッとした。気持ちがバレないようにしらを切った。
「何のことだ? 」
「だから、壁画の手がかりが見つからなくてさ」
「おお、うん、でもま、見つけるよ。其の為に警備会社に入ったんだから。安心してくれ、恭也。絶対見つけるから」
動揺しながらも何とか誤魔化した。
俺は正直何の手掛かりもない状況に少し諦めかけている。防犯カメラに怪しい人物でも映らない限り進展はないだろう。
俺たちだけになると涼介は「良い子たちだったな、夏目以外は」と言った。
「確かに」と恭也が笑った。
恭也と涼介は明日も仕事だと言い俺のアパートで地酒を呑む事なく帰って行った。俺だけが恭也と涼介と違う世界にいるからなのか、少し寂しい気持ちになった。
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