第45話 居酒屋の外
俺と恭也は声が聞こえた裏道をそっと覗いた。裏道の奥で涼介が例によって例のごとくという感じで五人の男に囲まれている。五人組は二十歳前後の仲良し不良組という感じの男たちだ。
「オイ、久しぶりだなこのパターン」
恭也は俺を見て笑った。
「今日のところは優しく見守るか? 」
俺が笑い返して言うと恭也は「まっ、今はうちの大事な社員だからな」と言った。
路地裏の全員俺たちの事に気づいてはいない。五人は俺たちを背に涼介は俺たちの正面に向き合っているが、奴は五人に集中しているのか俺たちにまだ気が付いていない。
「オイ、さっきまでの威勢はどうしたんだよ! 」「こいつ馬鹿みたいに正義感ぶりやがって」「おい、なんとか言えよ、ガリガリが! 」
男たちは涼介を取り囲んで詰め寄っている。不良たちは涼介を口汚く罵るだけで、一向に攻撃する気配はないので俺たちは暫くこの現状を楽しむことにした。
恭也は暴力関係が苦手な涼介が高校時代に生徒どうしのイジメ問題などに首を突っ込むことを嫌がっていたし、よく釘をさしていた。
これを機会に涼介にお灸を据えるつもりだろうか。
「いやいや、俺、威勢良かったかね? そこまででもないだろう、うん。まいったな、そういうつもりじゃなかったんだけど」
涼介がのらりくらりと時間を稼ぐ様子を見て俺たちは声を出しそうになった。
そして今、目の前で囲まれている涼介から着信が入った。涼介は五人に囲まれながらも何とかばれずに携帯の着信履歴で俺へのリダイヤルに成功したようだ。
俺は直ぐに着信画面を恭也に見せて、それから着信拒否を押し音を消した。恭也は息を殺して笑っている。俺も笑いを堪えた。
涼介は両手の平を前に出し、半降参ポーズで五人に話す。
「いや、謝るよ、ホント。ほんと今回はのところは一つ何とかお目こぼしをなんて。ねっ、喧嘩も強くないのに余計な事して………」
ダラダラと話を引き延ばす涼介と目が有った。俺たちを見つけて謝罪の雰囲気から一転して急に強気に出始めた涼介。
「そう余計な事をした俺は喧嘩はからきし、意気地なしだ。だがなこの俺、劉備を舐めない方が良いぜ、お前ら」
涼介は完全に俺たちの目を見ながら言った。五人は涼介のいきなりの豹変ぶりに面食らっている。
「なんだよ急に、コイツ」
気持ちよさそうに酔った顔の涼介が絶叫した。
「出てこい、俺の関羽と張飛よ! 」
涼介は二丁拳銃でピストルを撃つようにダサいポーズで俺と恭也を指さした。俺は呆れて恭也を見ると、恭也は俺を見て何か言いたげに口をパクパクさせて涼介を指さしている。
俺はまだしも涼介と恭也はビーンズグループを背負って立つ人間だ。こんなことに巻き込ませるわけにはいかないと思い俺は五人の背後に飛び出した。
「関羽ことこの俺、古川 晴一が」
俺が自己紹介しだすと恭也が途中で現れ俺の言葉を遮った。恭也は関羽の座を俺に取られると思ったのか慌てて俺の前に出た。
「待て! 本物の関羽ことこの俺、須藤 恭也がお前ら社会のゴミの相手をしてやろう。カスどもかかってこいやっほー」
俺は俺で恭也に暴力を振るわせないために恭也が気持ちよくスピーチしている途中で五人組を矛の天国で片付けた。
気絶させられていく仲間を彼らは一言も発さず自分の番が回ってくるまでおとなしく見ていた。今回、随分慣れてきたからか全員手加減して拳を当てる事が出来た。
師匠に貰った勾玉のお陰だったりして。
完全に気持ちよさそうに気絶する五人。それを見て、驚いているのか恭也と涼介は両手を前に重ね無言でホテルの接遇の姿勢で立っている。
涼介の奴は恭也に説教されると思っていたが意外にも何も言われなかった。
代わりに俺が涼介に言うことにした。
「おまえさあ、俺たちが探しにこなかったら、どうしてたわけ? 」
俺は一言、言わずにいられなかった。
「どういった経緯でこうなったかは知らないけど、お前いい加減にしろよ。恭也もだぞ。お前ら今、会社が大変なときにこんなくだらない事で大事になったらどうするつもりだ? 」
俺は今迄こいつ等に何か真面目に注意したことなどなかった。そんな立場になかった俺のような奴に説教されて二人は意気消沈している。少し笑えた。
「じゃ、呑み直すか? 」
俺が言うと一瞬うなだれた涼介だが直ぐに明るい口調で事の始まりを説明しだした。
俺が居酒屋で夏目と電話している間にトイレに立った涼介が、会計を終わらせて出て行くカップルを何気なく見ていると、店の外で五人組に絡まれ出したらしい。 しばらく見ていたが助けに店の外へ出たらしい。涼介は調子が良いだけではなくて本当に根っからいい奴なのだ。五人組の矛先が涼介へと向くとカップルは一目散に逃げ去ったそうだ。
「俺が庇ってやったのにダッシュで逃げやがったんだぜ、あのカップル。信じらんねえよ、まったくよ」
涼介は怒った口調だが笑っている。
「なんか、ガリガリがって言われてるの面白かったな」
俺と恭也が一緒に言うと涼介は「俺はそんなにガリガリじゃない」と言った。
結局、俺の部屋で続きを呑む事にした。
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