第28話

清志と淳二が数メートルまで近づくとその女性は傘をたたみ、右側に設置されてる金網のフェンスに立て掛けた

そのフェンスの向こう側は用水路があり、本格的に降り出した雨により増水し始めていた。


彼女の左側は安全の為なのか、防音効果を高める為なのか定かではないが国道沿いの数十メートルに渡って防音壁のような物が設けられている

歩道の幅は2メートルに満たないぐらいか?

街灯の支柱もある為にすれ違うに十分な余裕が無い。


その街灯に映し出された彼女の顔は多少、濃いめの化粧をしてあるようだが端正で美しかった!

ただ単に顔を見せる為に傘をたたんだと思った2人は女性へ更に接近してその容姿を確かめようとすると

「田中清志さんとそちらが仲西淳二さんですね?」

「初めまして・・・私は一之瀬沙希です」

2人の名前を手で示しながら確かめ、自分の名前を言った。


「あっ・・・は、初めまして!」

「さっきもコンビニで見たんですがポテトチップのキャラクターと同じ名前なんですね?」

「こんな雨の中をわざわざ来てくれてありがとう!」

淳二は一連の流れから紹介された女性だと思ったらしい?

清志と違ってまだ女性に馴れていない淳二は傍らで見ていた清志が危うく吹き出してしまいそうなほどに緊張しながらも精一杯の笑顔を作りながら挨拶した。


その様子を見た彼女は困惑気味に首を傾げながら

「あなた方は優音さんの実家に放火した犯人ですよね?」

そう訊くと前が開いた白いコートから見える赤いワンピースの裾に手を回すと花柄のハンカチで包んだ細長い物を取り出し胸に押し当てると微かに笑った。


衝撃的な言葉を浴びせられた2人なのだがワンピースの裾から微かに見えた白いレースの下着に気を取られ、まだ何が起こっているのかさえわからずに呆然としている。


「人を死に至らしめた者は自らの死をもってその償いとするのは当然のことでしょ?」

そう言った沙希は真っ赤な唇でハンカチを噛むと細長い物を右手で静かに引っ張り出した

それは街灯の明かりで不気味に輝く鋭利なナイフ!


清志と淳二はそれを見て初めて身の危険を感じたが

「あの火事は俺たちが殺したんじゃないんだ」

「あの夜、優音を脅かしてやろうと植え込みに火を点けたけど信じられないぐらいに燃え上がり消すことも出来なかった!」

清志が当時の状況を必死に説明する。


「だからあなた達はそのまま放って逃げたと・・・?」

そう呟く彼女の口元は笑っているようにも見えるがその瞳は凍りつくような殺意で爛々と燃えている。


その場から逃げようにも2人はその瞳に射貫かれ動けない!

「俺たち以外の誰かが大量の灯油みたいなのを撒き散らしてあの家を燃やすつもりだったんだ!?」

「俺たちが逃げるのを見ていたならあの異常な炎の回り方がわかるだろ?・・・俺たちが殺したんじゃない!」

「きっと俺たちの他の誰かがあの家族を殺すつもりでいたんだ」

2人はそれぞれに言い訳や推測を交えながら訴えた。


「他の誰かが殺す為に・・・?」

沙希の脳裏にベールに包まれた記憶が微かに甦る

あの夜、私があの家に起こったことを記憶しているのはどうしてなんだろう?

この忌まわしい記憶の欠片は一体、何なの!?

罰を与えなくちゃ!

愛する優音を救う為に彼を苦しめ続けたこの2人に相応な罰を与えるのが私の役目なのだから・・・。

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