第27話
さっきまで小雨だったのにどうやら本降りになったようだ!
信也は急に大粒となった雨を避ける為にアパートの軒先へ身を寄せ、恨めしそうに暗い夜空を眺めた。
ふとドアの隙間から明かりが漏れているのに気づいた信也は何気なくそこに貼られてあった手書きの表札を見て見覚えのありそうな名前に思案顔になる
思い当たった人物と単なる同姓同名であろうと思いながらも興味本位で開いたドアの隙間からちょっと覗いてみた。
そこに見えたのは見慣れた優音の靴で彼のリュックサックがその先の床に転がされ中からキャリーバッグにあった荷物が無造作にはみ出し散らばっていた!
優音はここに居るのか!?
そう思った彼はドアを激しくノックしながら中に呼び掛ける。
「一体、こんな時間に何の用事があって大騒ぎしてるんだ?」
隣りに住む住民がドアを開けこちらを見ながら訊いた
「どうも済みません」
深々と頭を下げて謝罪した信也は急用があり、若い男性を探していると優音の特徴を言って知らないかと尋ねた
「ここには若い美人さんが住んでて時々、お前さんが探してるような男が出入りしてるみたいだな」
「見ての通りのオンボロアパートなんで壁が薄いから部屋で話す2人の声が聴こえることがあって仲良さそうな感じだが2人が一緒に出掛けるのをまだ見たことが無いなぁ・・・・」
「ドアに鍵が掛かってないのなら多分、2人のどちらかが中に居るんじゃないか?」
「でもなるだけ穏やかに話して静かに頼むよ」
何を勘違いしたのか想像は付くが人の良さそうな中年の男は笑顔を見せながらそう言ってドアを閉めた。
信也は女性の部屋に無断で入ることを躊躇したがドアを開け、玄関に足を踏み入れ声を掛けながら中を伺う
何とも生活感の無い部屋であると言うより殺風景だ・・・
ここには全くと言っていいほど人が住んでる気配がしない!
一之瀬沙希・・・彼女は一体、何者なのだ?
しばらく考え込んでいた彼はハッと思いついたように頷き玄関にあった優音の物であろう黒い大きな傘を借りると、ドアを開けて外に出た。
隙間が空いていたドアを今度はしっかり閉め、傘を開いた彼は目指す方向を決めたように急いで歩き出した。
「雨になるとは聞いてたがこんなに降るとは思わなかったよ」
雨で濡れたズボンの裾と靴を気にしながらぼやいた清志は淳二と傘を並べて歩いていた
小雨が降っていたが濡れるほどでもなく遠回りとなるが清志の恋人が働いているコンビニへ寄って買い物を終えた職場からの帰り道である。
大粒の雨が降り出したのはコンビニへ着いた直後だったのでビニール製の傘を買えたのは幸いだったかも知れない?
普通にそのまま、社員寮へと帰っていれば途中で降り出した雨でずぶ濡れになった可能性がある
それに恋人が居ない淳二を気の毒に思った清志の恋人から友達を紹介するという提案を受け、この土砂降りにも関わらずテンションは上がり上機嫌だった。
そんな2人の前方に白いレインコートを着た女性らしき人影がゆっくりとした足取りで近づいて来る・・・
どうやら傘をさしているようで街灯の下で立ち止まった彼女の顔までは良く見えなかった
「もしかして彼女は俺たちを待ってたのか?」
そんな様子にも見えた淳二は清志に問い掛けた
「紹介すると言ってもこんな雨が降ってるのに呼び出すはずは無いと思うんだが確かに待ってるように見えるなぁ?」
そんな会話をしながら2人は何の警戒心を抱くことも無いまま立ち止まった女性へと歩み寄って行った。
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