第25話
「お前、これからどこかに出掛けるのか?」
信也はリュックを背負った優音に声を掛けた。
「うん、気分が悪くて寝てばっかりだったから久し振りに彼女とデートでもしようかと思ってね」
優音はそう言いながら無表情な顔で笑った。
「彼女って?・・・お前、誰かと付き合ってたのか!?」
「そんな風には見えなかったから全然、気づかなかったよ」
「ところでリュックに荷物をたくさん詰め込んでるように見えるが一体、何をそんなに入れてるんだ?」
気になった信也が尋ねると
「彼女へのプレゼントさ!」
「久し振りに会うことになるからプレゼントしようと思ってね」
優音はそう答えたがいつもの彼と何となくではあるがどこか様子が違う気がする・・・?
気になった信也は彼に歩み寄ろうとしたが優音は慌ただしく扉を開けると部屋を出てしまった。
上手く誤魔化せたかなぁ?
俺はそう思いながら階段を駆け降りる
目が覚めた時、俺は信也の黒いキャリーバッグを鍵を使い開けてしまっていたのだが中に入っていたのは彼の物じゃ無く沙希さんの洋服や下着、カバンや靴だったのだ!
なぜ沙希さんの持ち物を自分の物だと信也は言ったのか!?
多分、俺が彼女の部屋から持ち出したか、預かっていたのだろうがそんな記憶が無い俺にはわからない。
取り敢えず沙希さんのアパートに行ってどんな理由でこれが俺の部屋にあったのかを聞かなくちゃいけないと思い彼女に連絡すると喜んだ口調で会いたいと言った。
自分の大切な女性の持ち物を親友が持ってたという事実に嫉妬心という妄想が拍車を掛けようとするが信じ続けたいという気持ちが何とか今の俺を冷静に保っていた!
そんな俺の足取りは自然と速くなり息を切らしながら急いで彼女の元へと向かっていた。
一方の信也は優音の態度に違和感を覚えたがどこが変だという確証も持てずに取り敢えずシャワーで汗を洗い流した
何だか彼が自分に警戒心みたいなものを持っているのではないかと思い、身体を拭きながらその理由を考えた
そう言えば昨日もどこかに出掛けたようだったが・・・?
一応、さり気なく訊いてはみたのだが曖昧に誤魔化す感じでその答えは何もわからず仕舞いであった。
彼女に会いに行くって言ってたがもしかして昨日もデートでどこかに出掛けてたから言い難かったのだろうか?
それにしても帰った時のあの様子は楽しげではなかった。
何かに追い詰められてるような優音の表情に何かが起きたことは確かなのだがこれ以上、彼の心情を乱すような言動は慎むべきだと判断した信也は無理に問い詰めなかった・・・
それほど優音に対し注意していたにも関わらずあの警戒心は一体、彼に何があったというのだ!?
そんなことを考えながらベッドに腰掛けた彼は財布に溜まった小銭を入れようと枕元の引き出しを開けた。
「ん・・・?」
微かに呟いた彼は引き出しを引っ張り出すと中を調べ始めて
「鍵が無い!」
そう言いながらもう一度、丹念に探し始める。
「まさか、あのリュックに入ってた荷物だったのか・・・?」
慌てて立ち上がった信也はクローゼットを開き、鍵が付いたままになっていた黒いキャリーバッグを開けて確認すると中はすでに空っぽだった!
すぐに腕時計を見て時間を確認した彼は優音が部屋を出てから随分と時間が過ぎていることに舌打ちするが急いで服を取り出し身に着けると部屋を出てロックする。
「何ですぐに気づかなかったんだ!」
罵るように声を上げると物凄い勢いで階段を駆け降り玄関を飛び出すと周囲を見回し、自分の勘を頼りに走り出す!
頭の中は間に合ってくれと祈る気持ちで一杯だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます