第23話
実家を焼かれて失った俺には家族の思い出となるものが何一つとして残っていなかった。
子供の頃の思い出と言えば活発で正義のヒーローに憧れ、困ってる人を助けたり悪い奴らを懲らしめるといった身体は小さくても無敵のヒーローを気取ってたぐらいか?
それもある日、同じ年頃の少年を助けようとしたことを境に次第に孤独な日々を自ら好むようになって行く。
家族との思い出は車選びをしたことぐらいか?
家族写真などを手元に置いてなかった俺は両親の姿でさえ、記憶の中にしか残っていないのだ!
俺はもう一度、今度は自分だけで実家があった空き地に行ってみようと思うようになり今日、ここに出掛けて来た。
見るとこの前もそこに座っていたお爺さんをみつけた
きっと老人にとってそこはお気に入りの場所なのだろう?
話を聞いてみようと俺が老人の前に歩いて行くと
「優音君じゃないか、久し振りだねぇ」
俺の姿を見たお爺さんはそう言ってにっこり微笑んだ。
確か、沙希さんとここに来た時に会ったはずなのに今日だけお爺さんの方から話し掛けて来たし、俺のことを良く知ってるみたいに気軽に声を掛けてくれたのはどうしてなんだろう?
不思議に思った俺は
「俺のことを良く知っておられるんですか?」
そばまで歩み寄るとしゃがみこんで訊いてみた。
「小さい頃と言っても小学生じゃったかなぁ?」
「いつもイジメられて泣きながら歩いていたから心配しながら見ていたんじゃが親御さんも随分、心配して転校させようとまで考えながら悩んでたのを思い出すのう」
「あぁ、そうじゃった」
「ここで優音君の親御さんの話をするのは酷じゃったな?」
お爺さんは申し訳なさそうに俺に謝った。
いつもイジメられてたってどういうことなんだ!?
俺の記憶ではその頃は活発な子供じゃなかったのか?
また記憶が違ってる・・・?
俺は放火事件のショックで記憶が途切れていると老人に説明し、他にも色々と質問してみた
その中で俺と揉めたことがある中学生の情報を訊き出すと彼が務めているスーパーを教えてくれたので行ってみた
運よく手が空いてる時間帯だった彼が話してくれた内容は俺がこれまで信じていた記憶とかなり違っていた。
体格が小さく人見知り的な部分があった俺は暗い感じでかなり酷くイジメられていたそうだ・・・
その日、俺がイジメられてる現場に遭遇し友人たちと止めさせに行こうとしたらイジメられていた俺が突然、数人を相手に反撃したらしい。
その時の俺は半狂乱でとても子供の喧嘩とは思えない程、凄まじく、近寄るのをちょっと躊躇うくらいだったそうだ
彼らが俺を落ち着かせようとしたが彼らにも攻撃して来たので仕方なく応戦し、取り押さえた途端、人が変わったように大人しくなり今度は急に笑い出したとのことだった。
その薄気味悪い俺の行動が噂になりイジメから解放される代わりに誰も近寄らなくなった!
中学までの俺は誰とも話さない孤独な毎日を送っていたと教えてくれたが、その後の俺は良く知らないらしい・・・
彼には強烈な印象で残った出来事みたいで一部始終を今でも鮮明に憶えていたのだ。
同じ年頃の誰かを助ける為ではなく、自分で自分を助ける為に人格が豹変し、俺の記憶に2人分が残っているのかはわからないが記憶のほとんどが自分の中で勝手に作られているとすれば意識を失うたびに違った記憶が残るというのも仕方ないのかも知れない・・・
だが、それは自分の記憶を信じられないということでもある!
果たして俺は本当に多重人格者なのだろうか?
信じたくない気持ちを胸に抱きながら俺は帰途に就いた。
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