第22話

「俺は今までお前が悲しみを必死で乗り越えようと、苦しみ混乱してるだけだと思ってたんだ」

「でも本当は家族を失った辛い記憶そのものを消したくて日常の記憶にまで影響してたのかも知れないな?」

「まだ解決しなけりゃいけない問題もあるがこれからは俺も協力するからな!」

俺の気持ちが落ち着くのを待った信也は申し訳なさそうに言ったが解決しなければならない問題って何だろう?


あの放火犯人であると思われる清志と淳二のことか!?

「信也が居てくれたから俺もやっと事実を知ることが出来て向かい合うことが出来るようになれた、ありがとう!」

俺がそう言って笑顔を見せると信也も嬉しそうに笑った。


「俺が色々と訊いた話では火事が起こる数日前にお前とあの2人が激しく喧嘩してるのを見た奴が居るんだがお前はそのことを憶えてるか?」

一体、何のことなのか記憶の欠片さえみつからなかった俺は呆気にとられた顔で信也を見た。


「多分、その後だったと思うんだが次の日に2人して会社を休んだから気になって部屋を訪ねたんだ・・・」

「その時、2人とも顔が腫れていて殴られた跡みたいな気がしたんでどうしたのかと訊いたら2人で喧嘩したけどもう仲直りしたから心配ないと2人で笑ってたんだ」

「そこにお前が通り掛かって気軽に挨拶したんだが、2人はお前を憎しみに満ちた表情で見ていた」

「だがお前には何も変わった様子は無かったし、その時の俺には2人の表情が何を意味するのか、わからなかった」


「俺に教えてくれたそいつの話では間違った釣銭を今すぐ返して来いと怒鳴ったのに腹を立てた清志と淳二が殴り掛かったそうで、一方的に2人ともお前にやられたそうなんだ」

「普段のお前とはまるで別人みたいに見えたと言ってたよ」

信也はそう説明を加えながら話すと俺の反応を伺う。


「別人?・・・多重人格ってことなのか!?」

どうしても思い出せなかった俺はもしかして自分の中に別の人間が居るのかという恐怖を持ちながら彼に尋ねた。


「その時の様子をそいつがハッキリと憶えてたんで事実には違いないだろうが別人に見えたということは逆に言えば別人だったと言えないこともない・・・」

「それにあの2人もお前と喧嘩したことを認めていない!」


「これは単なる俺の推測だがこの話が本当だとするならば清志と淳二はお前に恨みがあることを知られたくないからで、お前の実家に放火する動機が無いということにしたいんじゃないかということかも知れないな?」

確かにその話が本当なら2人の動機になるかも知れないがそのことを全く憶えていない俺は別人だった!?

俺の中に別の人格が存在し、自分が知らないうちに勝手に行動してるってことになる。


急に眠くなったり、意識を失くしたりするのは俺と違う人格がその時に目覚めてるってことなのか!?

これまで謎だったことが解けて行く代わりに大きな不安が俺の中で次第に膨らみながら恐怖へと加速して行く!


蒼ざめた俺を見た信也は

「別にそうと決まった訳じゃない・・・」

そう言ったが彼の顔には確信に似た何かがあったのだがその時の俺は混乱していて気づかなかった。


多重人格という可能性に否定を繰り返す俺の頭の中には無残に切り刻まれ死んだ子猫を抱いて不気味に笑ってる自分の姿が蜃気楼のように映し出されていたのだ!


「もしかしてあの子猫は俺が殺してしまったのか・・・?」

そう呟いた俺は頭を抱えながら大粒の涙を流した。

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