第20話
それから数日間は何事も変わらぬ日々が続き、その日の俺は体調を崩し会社を休むことにした。
「薬はちゃんと飲んでるのか?」
「俺が帰って来るまでベッドでゆっくり休んでるんだぞ!」
信也は念を押すように何度も俺に言うと職場へと出掛けた。
風邪なのかなぁ?
薬!?・・・一体、俺は何の薬を飲んでるんだ?
そう思った俺は何となく気になり、ベッドから下りると部屋の中を探し始めたが薬箱の市販薬ぐらいしかみつからなかった。
何かスイッチが入ったように反応するのだが断片的に記憶が欠けてるみたいな感じで何も思い出せない・・・
もしかして俺は薬を飲まなくちゃならないほど前から体調を悪くしていたのだろうか?
いや、そうじゃない!・・・そうじゃくて風邪だと思った信也が薬を飲んだのかと俺に確認しただけなのだろう!
俺は心の中で自分に対し何度も何度も繰り返した。
少し気分を落ち着かせよとベランダに出た俺はサッシを閉めると壁にもたれてコンクリートの床に座り込んだ
ひんやりとした床が気持ちを冷ましてくれるようで心地よい。
「信也があの夜のこと調べてるみたいだけど大丈夫なのか?」
ベランダの向こう側から清志の声が微かに聴こえた
「あの放火事件で一番、疑われていたのは優音だったからなぁ」
「まぁ、今でも警察は優音のことをマークしてるって話だぜ」
「目撃者も無く、証拠も残ってないから警察も一旦、怪しいと思ったら何としても立証したいんだろうよ!」
「まぁ、俺たちとしては都合がいいってことだけどな」
淳二は清志にそう答えると笑いを漏らした。
「それはそうだが逃げる時に俺は確かに人影を見たんだよ」
「きっとそいつは俺たちのこと見てたんじゃないかと思うぞ!?」
清志の言葉に淳二は
「そりゃ何かの見間違いだろう?」
「あんなとこ見といて誰にも言わず黙ってるわけ無いだろ」
「もう済んだことだし、こんな会話を誰かに聞かれちまった方が一番、危険なんだからもう忘れろ」
そう言って煙草に火を点けたらしく匂いが風に乗り漂って来た。
一体、これは何の話なんだ!?
放火事件ってこの前、沙希さんと行った薬局である清志の家が燃えてしまったことを言っているみたいな気がするが・・・
もしかして信也が言った調べてることってのはこのことなのか?
そして今でも俺がその犯人だと疑われているのか!?
じゃあ俺を尾行しながら見張っていたのは警察ってことなのか?
逃げる所を見られたということは清志と淳二が犯人!?
一体、何の理由があって自分の家族を殺す必要があるんだ!
俺は頭が変になってしまいそうなほど多くの疑問を突き付けられ、声を上げそうになり口を強く押さえた。
疑われてるってことは俺もこの放火事件について事情聴取を受けているに違いないのだがそんな大事なことを俺は何一つ、憶えていないのだ!
そう言えばこれまでにも複数の違った記憶が交錯してた
俺はやっぱり何かの病気なんだろうか?
こうなってしまってはもう自分だけの力で解決することは難しいと考えた俺には信也しか居なかった。
人の気配が無くなったのを確かめた俺は静かにサッシを開くと部屋の中に入った。
俺がこの部屋に居たことをあの2人に知られてはマズイ!
そう思いながら何とか記憶を取り戻そうとしたが激しい頭痛に見舞われて意識を失くしてしまった。
どれくらいの時を経たのだろう?
暗い闇の中に落ちて行く俺を呼ぶ声がした・・・
「優音くん・・・優音くん!」
「僕はもっと強くなる、強くなってきっと君を助けてみせる!」
最後は叫び声に近く、とても力強い声だった。
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