第19話

思い込んでしまうことはとても危険である!

全ての考え方を無にしてしまうからで俺にはそんな思い込む癖があり、自分で分かっていてもなかなか直せない。


「お帰り、俺にも何か買って来てくれたか!?」

扉を開けた途端、振り向いた信也は買い物袋を下げた俺を見てお土産を催促しながら笑顔を見せた

「いつものでいいんだろ?」

「ちゃんと信也の分も買って来てやったよ」

俺はいつもと変わらない彼に袋から取り出した弁当を見せた。


「ちょっと聞きたいんだけど信也があの日、コンビニで揉めた男とあれから何かトラブルにでもならなかったか?」

俺が気になってることでもあるし悩む原因があるとするならそれぐらいしか思い浮かばなかった。


「あぁ、あの店員さんか?」

「買い物客と揉めたことを理由に辞めさせられたらしくて代わりに可愛い娘があのコンビニでバイトしてるだろ?」

「いつだったか電話で清志から相談されたんでアドバイスをしてやったんだけど昨日、告白して成功したらしいぞ!」

店員さん!?・・・そうだったっけなぁ?

背後からぶつかられたんでそう言えばそうだった気もするし、あのコンビニで深夜に店長を含めて3人も必要なのだろうか?

信也から言われて俺はそんなことを考えながら

「淳二から聞いて、あのコンビニで清志から聞き、ここでまた信也から聞かされたけど知らなかったのは俺だけか?」

俺は笑いながら冗談っぽく憐れんで言った。


「お前も知ってたと思ってたんだがそう言えばあの日の飲み会に参加していなかったんだよな」

「仲間外れにしたわけじゃ無くて教えるのを忘れてたんだ・・・」

「清志がフラれたら残念会でもやろうかと期待してたんだが上手く行くとは悪運の強い奴だ」

俺は信也の言葉に目の前が急に明るくなった気がした

そうだったんだ!

あの日に信也が電話で話したのは清志だったんだ。


俺を清志の恋のライバルだと勘違いした淳二はあの日、携帯を弄りながら1人で歩く俺を見て警戒したに違いない・・・

だからその後も何度か俺の様子を伺っていた!

それを察知した俺は意味がわからず不安になっていたのだ。


思い込んでしまうのは危険である!

その時の俺は謎がすべて解けたような気になり1人で勝手に納得していた。


だが・・・

同じ場面に2度も遭遇したような異なる記憶!

血で汚れた大型のカッターナイフとシャツと社員寮近くで発見された切り刻まれてる子猫の死体!

清志の実家はコンビニでは無く、やはり薬局であったことと火事により焼け、清志を除く家族全員が亡くなっていること!

クローゼットの中に置いてある黒色の大きなキャリーバッグ!


その後も信也の様子はどう見たっていつもと変わりなかった!

俺には見せない彼の悩む姿を淳二と清志が知っているとすればまたしても俺の存在は忘れられてる?

思わず照明で映し出された自分の影を見て苦笑した。


「突然、苦笑いなどしてどうしたんだ?」

信也はそう言うと

「お前も彼女が欲しくなっちまったか!?」

「寂しくなったら俺がいつもお前のそばに居てやるよ」

「それに気になることがあって自分なりに色々と調べてるんだが単なる俺の思い込みかも知れないしなぁ・・・」

ちょっと考え込む仕草を見せた信也はそれに気づいて明るい表情に変えるとベッドから降り俺の肩を激しく叩きながら笑った。


「信也は手加減ってもんを知らないのか?」

「そんなに激しく叩いたら痛いに決まってるだろ」

確かに痛いのは痛いんだがさっき一瞬、見せた表情は何だ!?

一体、何を調べているのかわからないが確かに悩んでるように見えなくも無いと思ったが俺は敢えて話題を変えた。


それから2人で好みの女性談義をし、俺は沙希さんのイメージをそのまま好みの女性として信也に言った

「まぁ、お前の理想は具体化し過ぎてちょっと無理だな!」

「それに似たような娘を知ってると言えば知ってるが・・・」

そう言いながら俺の顔を覗き込んだ信也に詳しく言い過ぎてバレてしまったかと思った俺は慌てて突き放す

「あはは、それだよそれ」

信也は俺のベッドの棚に置かれたままのポテトチップを指差しながら言うと

「お前、それをいつまで食べないで大事にしてるんだ?」

「よっぽどそのキャラがお気に入りなんだな!?」

からかうように言って俺が信也に買って来た弁当を冷蔵庫から取り出すとレンジに入れて温め始めた・・・

今夜は早めの夜食らしい。

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