第18話

目が覚めた瞬間に極度の不安に陥る・・・

周囲を見回し自分がどこに居るのかを確かめ身体に異常がないか、衣服に乱れは無いかなど調べ終わってやっと生きた心地がするといった具合だ。


精神的な疲れもあるのだろうが今の俺には熟睡してしまうのが一番、怖いと思うようになっていた。


俺はまだ寝ている信也を起こさぬよう静かに身支度を整え、部屋を出てのんびり歩いていた

涼しいと言うにはほど遠いが一時期の猛暑から比べれば何となく過ごし易いようにはなって来た。


ついでに信也の分も含めて夜食でも買って帰ろうかと思った俺はコンビニのある方角へと向かった・・・

すると道の向こう側から淳二が歩いて来るのが見えた。


手には小さなビニール袋を下げているからコンビニの帰り?

「優音もコンビニへ行くのか?」

声が普通に届く距離まで近づいた淳二は俺にそう訊いた。


「気晴らしの散歩に出ただけなんだけど、ついでに夜食でも買って帰ろうかと思ったんだ」

俺が答えると

「1人とは珍しいじゃないか?」

「優音と信也は仲がいいからなぁ」

笑いながら冗談を言った淳二は神妙な顔をすると

「ちょっと時間があるならそこらで話を聞いてくれないか?」

そう言って道路脇にある木陰を指差した。


「ホントはもっと早く言って謝らなきゃいけないと思ってたんだが実は俺、優音の後を何度かつけたことがあるんだ」

淳二はそう言って手を合わせて謝罪のポーズをする。


「俺と相部屋の清志に最近、好きな娘が出来ちまってな」

「そこのコンビニでアルバイトしてる娘なんだけど最近になって理由は知らないが男の店員からその娘に変わったんだよ」

「その娘に清志が恋しちゃったってわけだ」

そこまで話した淳二の顔をいつの間にか俺は真剣に見ていた。


「俺はお前が誰かと携帯で話してるのを聞いちゃってもしかして優音と清志は同じ娘を好きになってしまって優音はその娘と付き合ってるかも知れないと思ったんだけど優音に直接、訊けなかったんだ・・・」

「もし、そうなら清志には諦めさせなきゃならない!」

「だから優音の後を追い掛けて見張るような真似してたんだ」

「でも優音にそんな様子は見られなかったし清志も昨日、その娘に告白して付き合うことになったみたいだから安心したよ」

「気づいてたようだから不気味な思いをさせてしまったようだけどホントに申し訳なかった」

一気にそこまで言った淳二は深々と頭を下げて謝った。


淳二の話を聞いた限りでは俺の後をつけてた気配は淳二で沙希さんの後をつけてたのが清志なのか?

清志が付き合うことになったコンビニでアルバイトしている娘は俺があの日、沙希さんと出会ったコンビニとは違うのだろうか?

じゃあ誰が彼女の後をつけ回してるのか!?

もしかして沙希さんの思い込み?


「それは良かったじゃないか!」

「友達を心配してやったことだしそんなに謝らなくてもいいよ」

信也も動揺した俺を慰めながら血だらけになった服を嫌な顔一つせずに始末してくれた・・・

きっと淳二も清志のことを案じて必死だったに違いない!

それを責めることなど出来るはずも無かった。


淳二と笑顔で別れた俺は予定通りコンビニに向かった

扉を開けて中に入ると女性店員がレジ係として居た

この時間帯はきっとこの娘がバイトしてるんだと思いつつ店内を見回すと雑誌コーナーに清志が立っていた。


雑誌を読んでる風を装ってはいるがほぼ彼女に視線が釘づけで何だか笑ってしまいそうになった俺は清志のもとに行くと

「おめでとう、良かったな」

周りに聴こえないよう小さな声で祝福した。


「何だ、あいつはもう言いやがったのか?」

「別に口止めしたわけじゃないし知られて祝福されるのも嬉しいよ」

「ところで信也の様子はどうなんだ?」

「最近、とても悩んでるみたいで俺たちが訊いても話してくれないけど優音なら何か聞いてると思ってな」

「あいつは優音のことを凄く大事にしてるから何か相談することがあったらちゃんと聞いてやれよ」

「優音が1人で解決出来る問題じゃ無かったときは俺たちも協力するから遠慮なく言ってくれよな」

信也が悩んでる!?

いつも一緒に居る俺だがそんな風には見えなかった。


いつも一緒だから気づかないのだろうか?

それとも俺の前では強がって顔に出さないだけかも知れない。


周囲で起こっていた謎が少し解けて来たような気がしたが、俺は自分のことだけで大切な親友の悩みにさえ気づかなかったのか!?

いつも親切にしてくれる信也の姿を思い浮かべた俺は後悔した!

そう言えばあの黒いキャリーバッグ・・・

一緒に住み始めて4ヶ月も経つのに今頃、気づいたのだろうか?

信也は何でも無いような答え方をしたが清志から信也の様子を訊かれたときに真っ先に思い浮かんでしまった。


夜食を買った俺は清志に小さく手を挙げると俺の後ろ姿を見ながら微かに笑う清志に気づかないまま、帰り道を急いだ!

謎の無限ループ・・・そんな気がした。

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