第16話

「おい、大丈夫か!?」

信也に声を掛けられ揺り起こされて目が覚めた俺は焦点が合わず、うつろな目で彼の顔を見ていた。


「起こして悪かったかな?」

「何だか死んだように眠ってたんで心配になって声を掛けてみたんだが何とも無いようで安心したよ」

「顔色もいいみたいだし病院に行って良かったじゃないか」

俺が目覚めたことでホッとしたのか信也はベッド脇から離れ、着替えとタオルを持つとバスルームへと入って行った。


あんな感じで眠ってしまった俺は妄想か現実かわからない状況になってるんじゃないかと心配したが信也の様子を見る限りでは大丈夫みたいで安堵した。


バスルームから出て来た信也と外で食事でもしようという話になり、着て行く服を選ぶ為にクローゼットを開けた俺はそこに置かれた大きな黒いキャリーバッグに気が付いた

初めて見たような気がするし、前からそこに置いてあったような気がしないでもない・・・

真っ黒なケースだから気が付かなかっただけかも知れない。


「あぁ、それか?」

「ちょっと大きいから邪魔になるだろうがお前の許可はちゃんと取ったけど・・・もう忘れちまったのか?」

俺の様子に気づいた信也は冗談交じりに言った

「人間の記憶ってのはそんなものだよ」

「俺は何度もこのクローゼットを開けて服を出し入れしてるがこんなものが入ってることに初めて気づいた気がする」

着る服をハンガーから外した俺は扉を閉めながら答えた。


自分の物ならば忘れてしまったことに少なからず、ショックを受けるだろうが信也の物ならば忘れてしまったとしても当然といえば当然なので大して気にも留めなかった・・・

人の注意力はそんなもので意外と気づかないことも多い。


俺と信也は15分ぐらいの距離にあるファミリーレストランへと行くことに決め、寮を出ると歩き出した。


途中、沙希さんがバイトしてるコンビニの前を通ると彼女は店先でゴミ箱の整理をしていた

待ち合わせの時もそうだが俺が彼女のことを考えながらその場所に向かうと必ず待っていてくれる!

俺は信也に気づかれないように軽く手を挙げて挨拶すると彼女はとても嬉しそうな顔で小さく手を振った。


「ん?・・・誰か知り合いでも居たのか?」

信也は俺にそう言って周囲を見回した。


気づかれないようにと挨拶したつもりだった俺はその言葉に焦りを覚えて手を曲げたり伸ばしたりしながら

「最近、体の調子が悪かったから時々、こうやって動かしてみたりするんだけど変かな?」

照れながら変な言い訳をした。


「そうか、変じゃないけど誰かに合図を送ってるように見えたから知り合いでも居たのかと思っただけだよ」

心配してくれてるから俺のことを注意深く見ているのだろうが、こんな時はちょっと困るなと思いながら信也の言葉に笑って誤魔化しながら歩く。


雑談を交わしながらしばらく歩いていたが人の気配を感じた俺は立ち止まって背後を振り返ると素早く路地に消える人影らしきものを見た!

「今、誰か俺たちの後をつけていたよな!?」

やや興奮した声で信也が俺に訊いた。

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