第13話

今回は沙希さんを待たせることが無いように待ち合わせ時間より随分と早く来たはずなのに彼女はそこに居た。


小さく手を振りながら笑顔で出迎えてくれるのは嬉しいのだが一体、いつから俺を待ってくれてるんだろう?

抱き締めたくなる衝動を抑えながら切符を買って列車に乗り込むと座席に並んで座った。


女性とこんな風に出掛けるのは何年振りだろう?

前に付き合ってた娘がどんな顔だったか思い出せない。


名前は当時、人気があったアニメのキャラクターと同じ名前だったことだけを辛うじて思い出せるぐらいできっとその名前が特徴的な珍しい名前だったから憶えているのだろう。


そういう意味では人の記憶は曖昧で全てのことを必ずしも憶えているわけではなく、不確かなものなのかも知れない?

子供の頃はもっと活発で正義のヒーローに憧れ、困ってる人を助けたり悪い奴らを懲らしめるといった身体は小さくても無敵のヒーローなんだと思い込んでた。


どんな奴だったか覚えてないが中学生に絡まれて泣きそうな顔をしていた同じ年頃の小学生を助けようと3人の中学生を相手に喧嘩したこともあった!


当然の結果なのだが助けるつもりが彼も俺も散々に殴られ、強がって笑ってはみたが彼の俺を真剣な顔で見る視線に助けてやれなかった後悔と現実の厳しさを痛感した。


あの日から俺の中で正義のヒーローは消えた・・・

鏡に映る自分の姿が憐れに見えて自信を失くした俺は人と関わり合うことを極端に避けるようになった!

俺の周囲から友達は居なくなり、正義のヒーローは一転して何を考えてるのかわからない変な奴になったのだ。


誰が悪いのでも無い・・・

人と関わり合うのが怖くなった俺には孤独になった方が楽に思えたから都合が良かった。


今の会社に入った時も俺は孤独で友達は皆無だった!

そんな俺に突然、話し掛けてくれたのが信也で話してるうちに仲良くなり、相部屋の希望も彼の名前を書いて提出した

信也も希望したらしく2人は同じ部屋で暮らすことになった。


彼から清志と淳二を紹介され仲間という輪の中に入れられ、一気に孤独から解放された俺は仲間という人間関係に慣れ親しんで行けるようにこれまでの自分を捨てた!

誰も過去のことは話さないし気にしない・・・

信也という新しい友達によって俺の環境は一変したのだ。


誰も疑いたくは無いのだが真実を知ることでどんな結果が待っていようとも俺は全てを許すつもりでいた。


隣に座る沙希さんとの会話は無かったがその手はしっかりと繋がれていて、喋る必要が無かったのかも知れない

やがて列車は駅のホームへと止まり、2人は手を繋いだままホームに降り立った。


ここから清志の実家までは歩いて行ける距離だ

駅を出て記憶を頼りに彼女の手を引きながら歩き出した。



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