第10話

真っ暗な世界?

目を開けた俺は瞬間的にそう思ったが、やがて薄明りの中で自分の部屋であることがぼんやりと見えてくる。


汗で濡れたようにまとわりつくシャツが気持ち悪かった


それとなく生臭い感じがする悪臭もあり、いつも暮らしてる部屋に違いないのだが違和感を覚えた。


どうやらうつ伏せに倒れた格好で居たらしい・・・

俺は右手に何かを握り締めていることに気づくと目の前に近づけ確認しようと

試みるが暗くてよく見えない。


変な体勢で転がっていた為か、こわばってしまった身体をのろのろと呻き声を上げながら動かし立ち上がる。


部屋の照明のスイッチを入れて自分の姿を鏡で眺めた俺は危うく叫びそうになるほどの衝撃を受けた!

黒っぽい悪臭を放つ色に染まったシャツに大型のカッターナイフを持った俺が鏡の前に立っていたのだ。


一体、これはどういうことなのだ!?

信也がバスルームに居て俺はアルコールを少しだけ混ぜた炭酸ジュースを飲みながらシャワーを浴びようとしてた

そうだ!・・・また俺の記憶は塗り替えられていた

もしかしてこの異様な姿の俺も本当の俺じゃ無いのか?

否定しようと何度も試みるが閉じた目を開ける度に同じ姿が鏡に映し出されていた。


俺は何をやらかしてしまったのだ!?

色は赤くなくてもこれが何かの血であることには違いない!

これがもし人間の血だったら?

俺は部屋の隅々まで歩き回り探したが何も無くてホッとした・・・

信也が部屋の中で倒れていたらどうしようかと思ったのだ。


何がどうしてこうなったのかはわからないが取り敢えず手を洗い服を着替えることにした。


脱いだ服をゴミ袋に入れていると部屋の扉が静かに開いて信也がゆっくりと入って来ると多くの買い物袋を下ろしながら俺の姿をみつけ

「気になって急いで帰って来たんだがもう大丈夫なのか?」

様子を伺うような表情で俺に訊いた。


「何だか血まみれになって倒れてたんだけど俺がここで何をしていたのか信也は知らないか?」

ゴミ袋に入れかけたシャツを広げて見せながら尋ねると

「その黒い染みは血・・・なのか?」

「それに・・・そのシャツは・・・まぁいいか」

「倒れてどこか怪我でもしたのか!?」

信也は驚いた様子で続けざまに質問しながら歩み寄る。


「俺はどこも怪我していないんだけど手にこのカッターナイフを握り締めていたし、シャツには血がついてたんだ」

血で汚れたカッターナイフを拾い上げて俺は信也に渡した。


「小型の小さなカッターならこの部屋にもみつければ有るかも知れないがこれは俺たちのモノじゃないよな?」

指先でつまむように持った大型のカッターナイフを眺めながら信也は俺に同意を求めるような口調で言った。


「お前は疲れてるみたいだったし一緒に買い物に行こうと誘っても起きなかったからなぁ・・・」

「こんな物騒な代物を持って出歩くことは無いと思うぞ」

そう言った信也はカッターをテーブルに置くと買い物袋から栄養ドリンクを取り出すと

「効くかどうかはわからないが飲んでみるといいよ」

ふたを開けて俺に渡しながら言った。


何だか同じ場所をグルグルと回ってるような気がする・・・

こんな光景はつい最近あったような?

また同じような会話を信也としているのだが今度は周囲の状況が一変してるじゃないか!?


一体、何が現実で何が妄想なのかがわからない!

だが俺の平穏だった日常は確実に悪い方向へと向かい転がり始めていた。


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