第7話

「ホントに病院に行かなくて大丈夫なのか?」

夜も明けてしまったことで後片付けを終えて部屋に戻ると信也は俺に訊いた。


「大丈夫・・・だと思う」

そう答えた俺は彼の顔を真剣に見ながら

「疑ってるわけじゃないんだけど俺の記憶をもう一度ちゃんと整理して置きたいんで確認するけど信也がこの部屋に帰った時、俺は頭痛を訴えながらベッドで苦しんでいたんだよね?」

と問い掛けた。


俺の質問に気の毒そうな顔をした信也は

「つまりお前の記憶では俺が言ったことと違う行動をしてたということなんだな?」

俺はその言葉に頷いた。


「俺にもそれがどういうことなのかは確信が持てない!?」

「数の上では3人が同じでお前1人だけが違うこと言ってるわけだが俺たちは多少、酔ってた・・・かも知れない?」

「そんな風に考えてみてもお前がさっき言ってたことに俺はまるで心当たりが無いんだよ」

「もしかしたらお前が俺たちと一緒に居たんじゃないかって思い出そうとしてもお前の姿は浮かんで来ないんだよなぁ」

「お前がそんな夢を見てたと考えれば全て解決するんだが、お前の話はあまりにもリアル過ぎるんだ!」

そこまで言った信也は俺の肩に手を置くと話を続けた。


「これはお前が何かの病気だと言ってるんじゃなくて時空の歪みとか違う世界が存在するんじゃないかと思ってな」

自分でも現実離れしたことを言ってるのが恥ずかしかったのか、信也はしきりに頭を掻きながら俺に言った・・・

だが今の俺には信也のそういう考え方が救いに思えた。


自分が狂っているのではないかと疑い始めていた俺にとってはそんな空想みたいな話じゃなきゃ納得出来なかったのだ。


「清志と淳二も気のいい奴らだからお前のこともちゃんとわかってくれるから気にするな」

「俺はこれからゆっくり寝ることにするけどお前も、もう少し眠った方がいいんじゃないのか?」

「今のお前は疲れ切ってるように見えるんで心配だ」

信也は彼にしては珍しく遠慮がちにそう言った。


「信也にそう言われるとやっぱり疲れてるのかな?」

「じゃあ俺もシャワーを浴びてから寝ることにするよ」

着替えとタオルを持った俺は信也が出て来るのを待つと入れ替わりで汗を流した。


バスルームから髪を拭きながら出て来た俺は冷蔵庫を開き、買って置いた炭酸ジュースのペットボトルを取り出そうと伸ばした手を一瞬、止めた!

買って来てからまだ一度も飲んで無いはずだが・・・?

ふと、そう思ったからである。


「ごめん、喉が渇いてたんで勝手に飲んでしまったよ」

俺の様子に気づいた信也はジュースの入ったコップを見せ

「ちゃんとコップに注いで飲んだ」

冗談っぽく言い訳しながら笑った。


こんなことは今まで日常的にあったことだし信也の飲み物を勝手に俺が飲むこともあるじゃないか!?

細かいことに過敏過ぎるほど神経質になっている自分を戒めるように言い聞かせる。


「代わりと言っちゃなんだが冷凍庫に入ってる俺のアイスでも好きなのを食べてくれ」

信也はいつもの調子でそう言うとコップに入ったジュースを飲み干し傍らに置くとベッドで横になった。


数分もしないうちに信也の寝息が聞こえ始める・・・


誰に見せるでも無く照れ隠しするように苦笑いした俺は自分のコップにペットボトルからジュースを注ぎ込むと一気に飲み干しベッドに仰向けになり目を閉じた。


もしかして俺は狂い始めてるんじゃないだろうか!?

そんな不安を抱きながら次第に深い眠りへと落ちて行く。



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