第3話
こんな中途半端な時間帯はこの社員寮も人の出入りがほとんど見られない、人と出会うのは出勤する時か、仕事を終えてここに戻って来る時ぐらいか?
あと1時間もすれば見知った同僚と挨拶を交わしたり束の間の談笑をしたりで賑やかになる。
「うーん・・・何だ、どこかに出掛けてたのか?」
俺が部屋に戻り着替えを済ませて洗面を終えた頃、眠りから覚めた信也は大きなあくびをしながら訊いた
儀式的な意味で信也は訊いたんだろうが質問された俺は多少、ドキッとして曖昧な返事をした。
仕事に行く為に準備を終えた2人は部屋の鍵を掛けると階段に向かって歩き出した
階下から聴き慣れた話し声が聞こえて来る・・・
コンビニにでも行ってたのだろう?
俺たちの隣りの部屋に住んでる田中清志(タナカキヨシ)と仲西淳二(ナカニシジュンジ)の2人で俺たち4人は信也を中心に何でも相談し合えるほど仲が良かった。
「やけにたくさん買い込んで来たなぁ?」
2人が持つビニール袋を見た信也が言うと
「先週は優音が実家に帰るから騒ぎ損ねたもんでな」
「今回は抜けてた優音に楽しんでもらおうと俺たち2人で勝手に決めちまったんだよ」
明るい声で清志が言うと淳二は
「仕事が終わったばかりで疲れてるだろうけど明日は共通の休みだし、一緒に楽しんでくれるよな!?」
騒ぐと言っても語り明かすだけの集まりなのだが、更に友好を深めようとこんな調子でいつもやってることだった。
こちらは仕事明けだがこの2人は騒いだ後の数時間を寝て、その日の夕方から仕事に入るのでお互いさまって感じだ!
どちらかと言えば俺たちの方が楽なのに俺のことを思って、こんなにも買って来る2人の好意は嬉しかった。
「いい友達に恵まれて幸せな奴だな」
「じゃあ今夜は存分に楽しめるように仕事は適当にしといて体力温存しとくか!?」
俺の肩を抱きながら信也が笑う
「ありがとう、じゃあまた後でそっちに来るよ」
俺は信也の後に続いて彼らとハイタッチをしながら階段を降りて行った。
「4人が一緒じゃないと俺だけじゃ盛り上がりに欠けるんで先週は2時間ぐらいで切り上げたんだぜ」
「まぁ、それだけお前の存在は大事ってことだな」
階段を降りながら信也はしんみりとした口調で言った。
先週は思い切って車を買う為に実家に帰り父親に相談しただけであったが金の苦労は若いうちにしといた方がいいだろうと言った父の一言で買うことに決めた!
そのあと家族で車を見に行ったのだが、欲かった車種が手頃な値段で置いてあった幸運もあってその日に自分の車を手に入れたのだった。
今は実家に置いたままだが運転に慣れて来たら親友たちを誘って4人で出掛けたいと思っていた。
だが今日、誘ってみたい相手が出来てしまった俺は彼らに申し訳ないという気持ちと仕方が無いんだという気持ちが胸の中で交錯していた・・・
出会ったばかりの沙希さんを選べば何ヶ月もの間、仲良く親友として付き合ってくれた彼らを裏切ることになる!
今朝の会話でそう決めた俺は近いうちに車を買ったことを告げて4人でドライブに行こうと誘うことにした。
二者択一、人生は選択の連続で成功や失敗を繰り返す・・・
自分が選んだ道が正しいか間違ってたかなど後にならねば誰にもわからないのだ!
いつかは彼女と一緒に出掛ける日も訪れるだろう?
諦めに似た感情で彼らを選んでしまった俺は何だか後味の悪い思いで信也と職場に向かい歩いていたが背後に何かを感じて振り返った。
その視線の先には笑顔で手を振る清志と淳二の姿が見えたのだが、急に振り返った俺に驚いた信也は
「何だか落ち着きが無くていつものお前らしくないみたいだが心配事でもあるのか?」
「頼りにならないかも知れないがお前の話だったらいつでも俺は聞いてやるぞ」
心配そうな顔で尋ねた。
「ごめん、そんなことが起きたらすぐに相談するよ」
咄嗟に笑顔を作った俺は信也に冗談っぽく言った。
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