第2話
ほんの僅かな時間で済むはずの買い物がこれほど時間を要することになるとは思いもしなかった俺と信也は店長の証言なども有り、怪我なども無かったことで双方の和解を得た形で事なきを経て解放された。
「それにしても災難だったよなぁ」
信也は帰り際にサービスで店から貰ったジュースを美味そうに飲みながら言った。
どうやら重なり合って倒れただけだと思っているらしく、これで彼女を更に傷つけることは無さそうだ
安心した俺は触れた彼女の唇の感触を思い出してしまい、忘れるんだと自分に言い聞かせながら携帯を置いて座ると買って来たカップ麺を食べ始めた。
何も変化の無い日常で大事件とも言える出来事が起きたのだから仲間同士に広がるのを食い止めるのは無理に近いが、それとなく信也には彼女のことは口に出さず起きた騒動のことだけを言って話題にしないよう頼んだ・・・
もともと正義感が強く、人の気持ちには敏感で優しい彼はあの後も一切、女性のことは何も話題に上げず、関心が全く無いかのように笑顔で約束してくれた!
その後は取り留めも無い会話をしながら寝る準備を終えた2人は電気を消すと深い眠りについた。
俺は枕元に置いた携帯の振動音で目が覚めた
登録されていない番号だったが、もしかすると昨夜の彼女ではないかと思った俺はベランダに出ると電話に出た。
「もしもし一之瀬沙希(イチノセサキ)ですけど・・・」
聞き覚えのある声で名前を告げた彼女は昨夜、起こった出来事について詫びると都合が良ければ会って話したいと文面を読むような感じで言った。
きっと電話を掛ける前に何度も練習したんだろう?
やや震えるような声が彼女の緊張を伺わせる。
何となく人の気配を感じサッシの向こう側を見ると信也はまだ寝ているようだ?
首を傾げながら俺は仕事までの時間を彼女に告げると、どこで会うことにするかを決めて電話を切った。
室内に戻った俺は洗面を済ませると身支度をして部屋から出て約束した場所へと向かった!
約束した時間まではまだ10分以上あったのだが出先から連絡していたらしく、彼女はベンチに座り待っていた。
何となく買ったポテトチップに描いてあったキャラクターとイメージ的に似ていて可愛い!
俺は緊張しながら彼女に近づくと
「ゴメン、もっと早く出て来れば良かったかな?」
そう言って謝った俺に恐縮しながらも笑顔で応えた彼女は
「あの時は気が動転しちゃってこのメモを残してくれた意味もわからずにごめんなさい」
「今朝になってきっと心配してくれたんだと気づいて電話したんですけど迷惑じゃなかったですか?」
申し訳なさそうに言った。
「あんなことが起きたんだから仕方ないよ」
「それより目が少し腫れてるようだけど寝てないとか?」
俺は会った時から気になってたことを訊いてみた。
「笑わないで欲しいんですけど初めてだったんです・・・」
顔を真っ赤にしながら小さな声で彼女は言った。
「え!?」
「それは何というか・・・こんな俺で申し訳ありません!」
言葉に詰まった俺は頭を下げて謝った
「い、いえ、そ、そんなことじゃなくて・・・」
「ちゃんと友達になれたら嬉しいかなと思って・・・」
更に申し訳なさそうな表情を見せながら言った彼女に
「出来れば友達じゃなくて俺と付き合ってくれませんか?」
俺はとんでもない申し出をしてしまった。
「あ、はい、宜しくお願いします」
恥ずかしそうにうつむきながらも彼女はそう答えた。
それからの2人はお互いの連絡先を交換し合い都合の良い時間帯などを話し合って次に会う約束を交わしたのだが、こうして話してみると以前から知り合いだったみたいに親しく会話が進み短時間だったにも関わらず急速に仲良くなれたことに俺は少なからず運命を感じた。
瞬く間に楽しい時間は過ぎ去り彼女と別れた俺は仕事への支度をする為、社員寮へと向かった。
せわしなく鳴く蝉の声に急かされるように歩きながら俺は今日のことを信也を含めた友人たちにはしばらく伏せて置こうと心の中で決めていた。
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