「神と隣り合わせの悪魔」

新豊鐵/貨物船

第1話

「そんな所でなにやってんだ?」

その声の主である彼は俺と同じ小学生だった。


相手は中学生で3人も居るのに俺を助けようってのか?

無理に決まってる!


「助けてやれなくてごめんな」

「何発かは殴ってやったけど2人とも随分、やられたね」

そう言った彼は大きな声で笑った。


俺はその笑い声を聴きながら思った・・・強くなろう!

強くなっていつかこんな風に誰かを助けたいと誓った。



何とも蒸し暑い夜だ!

仕事を終えた俺たちはドアの鍵を開けると中に入りながら部屋にこもった熱気に文句を並べたてる。


ここは町はずれに建てられた近代的な生産工場に隣接する社員寮である。


新入社員でもあり、独身である俺は入居申請で2人部屋に住むことになったが同部屋の藤村信也(フジムラシンヤ)は同い年でもあるし協調性に満ちた明るい奴で入社してまだ4ヶ月しか経ってないのに親友と呼べるほど仲が良い。


信也はその明るいキャラクターにより人付き合いも上手く、寮内に多くの友達を持つが俺もその仲間として外出したり仲間の部屋で騒ぎ合ったりと俺は楽しく暮らしていた。


昼夜を問わず稼働する工場に合わせて3交代制なのだが、寝る間を惜しんで遊ぶことも多かった。


エアコンのスイッチを入れる俺の隣りで腹が空いたのか冷蔵庫を開いた信也は

「そう言えば昨日、食ったんだっけ?」

何も入ってないことに気づくと

「今からコンビニでも行ってみないか?」

扉は閉めずにアピールするような顔で俺に言った。


0時を過ぎたこの時間に近所で開いてると言えばコンビニぐらいしか無かった。


交代で手早くシャワーを浴びた俺たちは私服へと着替えると、歩いて5分ぐらいで行ける一番近いコンビニに歩いて向かった。


シャワーを浴びて汗を流したからなのか、しばらく冷房の効いた部屋に居たからか夜風がそれほど暑く感じない。


2人で談笑しながら歩くうちに着くと、扉を開いて中に入り備え付けの買い物カゴを片手に店内を見て廻る。


俺の名前は佐々木優音(ササキハルト)

実家はここから車だと1時間ほどで行ける距離にあるが両親への負担を考えた俺は寮生活を選んだ。


自由な生活をしたいという本音もあるのだが、すんなりと親元を離れるにはそれなりの理由が要るし社員寮は金銭的にも都合が良かったのだ。


信也はいつものように弁当を何にするか真剣な顔で眺めているが毎回、決まって同じモノを選ぶ!

多くのモノを前にして悩むのが彼の癖なのだろう?

そんなお決まりのポーズを棚越しに見ながら俺が棚を整理している女性店員の隣りでポテトチップをカゴに入れようと手を伸ばした瞬間、誰かに背後から押されて態勢を崩した俺は店員を巻き込む形で床に倒れてしまった。


咄嗟に仰向けの態勢で倒れる彼女の後頭部を守る為に左手を回した俺は両肘を強く床に打ち付ける感じでうつ伏せに倒れ、彼女と抱き合ったようになり偶然とはいえお互いの唇が重なってしまった!

時間的には永遠と思うほどの羞恥心と申し訳なさ・・・

「ごめん」と謝った俺はすぐに立ち上がると彼女の手を掴み引き上げ、事の発端となった原因を探るべく周囲を見た。


「オイ!他人にぶつかっといて謝罪も無しなのか!?」

激しい物音に気づいて振り返った信也が原因となった相手の前に立ち、怒鳴るように責めている。


その怒声に反応するかのように怒りを露わにした相手の男は罵声を浴びせながら信也に殴り掛かった!

体格が大きい訳でも無く、見掛けだけではわからないが信也は腕力も人一倍強く喧嘩慣れしている

殴り掛かった瞬間に相手は床に倒れ悶絶していた。


その上から押さえ付けた信也と相手の男を店からの連絡を受けて駆け付けた警察官が引き離し興奮冷めやらぬ双方に事情を聴く間に他人には知られたくないだろうと思った俺は小声で彼女に再び謝罪し何か不都合なことが起こった場合を考えて連絡先を紙切れに書いて彼女に渡したのだが、この偶然の出来事があんな結果を生み出すことになるとは想像すら出来なかった。


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