第120話 40歳・行列墓地

売店の隣の休憩所のようなプレハブの前に、そののぼり旗は立っていた。


中を覗くと、チラシを持った男性が椅子に腰掛けている。


「あの・・・、こちらに書いてある墓地とは、ここのお寺の墓地なんですか?」


「はい、そうです。こちらの本寺です」


その方は、墓石屋の社員さんだった。


どうやらこのお寺では、指定業者として、1社だけが一手に引き受けているようだ。

案内役として、墓石やの社員さんがお寺の入り口に常に詰めていると言うのは初めて見た。

話を聞くと、こちらのお寺もちょうど墓地を広げたところで、まとまった区画の募集中なので、この業者さんが詰めていると言うことだった。


特に希望して他の業者さんに入ってもらうこともできなくは無いのかもしれないけれど、まぁそういう人は少ないだろう。

だから、今まで案内してくれた墓石屋さんは、ここでは募集がないといったのだろう。

お客を取られたくない気持ちは分からないでもないけれど、あまりいい気分はしない。

正直にいうのが嫌なら、せめて知らないとでも言っておけばよかったのに。



私はとりあえず、墓地をざっと見せてもらった。

観光客がたくさん来るお寺ではあるけれど、墓地はそこからは見えない、静かな場所にあって、とても広い。

数カ所、新たに造成された場所があったけれど、墓地全体が広いので、造成された箇所は全体に占める割合はそれほどではない。

その前に見たお寺のように、工事現場という印象はなかった。


価格の方は、さすがに今までの中でも、高額だった。

何とか手が届きそうな1番小さな区画は、墓地と言うより中型のお仏壇程度のサイズである。

いまどき都会では珍しくもない形なのだろうけれど、これまでとりあえず、それなりの敷地の中に墓石が立ったお墓だったのが、墓石同士がお隣とぎゅうぎゅうにくっついて並んでいる墓地になるわけだ。

鎌倉で購入する以上、それ自体は仕方がなかったが、今まで見た行列墓地の中でも一番小さく、そして高額である。

まぁ、サイズが小さい分、価格もよそより若干高い程度で抑えられてはいたけれど。


価格に唸っていると、分院のほうも案内できますと言われた。

分院の方が多少は安く収められそうだった。




妹と、もう一度見にきますと言って、パンフレットをもらって帰った。

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