第117話 40歳・遺骨

アパートには、母の遺骨と父の遺骨が並んでいた。


川口には一応、父の購入した墓があり、祖父母と、父の、幼少時に亡くなった兄弟たちが埋葬されていた。

祖母は10人産んで、成人したのは半分だったそうだ。




母が亡くなった時、その墓地に埋葬しなかったのには2つ理由がある。


墓地に埋葬されているのはつまり、父の肉親たちであり、母にはあまり関係がない。

関係がないと言うのもおかしな話だけれど、母は寂しがりな性格だったので、あまり親しくもなかった父の親族たちと埋葬されるより、父が亡くなった時に一緒に埋葬したほうがよかろうという話になった。


もう一つの理由は、母がその墓地を気に入っていなかったからだ。

実は、父が購入した後で、そのお寺に区画整理が入り、お寺の真ん中に道路が通ってしまい、我が家の墓地は飛び地になってしまったのだ。

購入したときには、お寺の門を入ってすぐの場所で、気に入っていたらしいのだけれど、飛び地になった後、入り口が移されてしまい、奥のほうになってしまった。

しかも、なんだか迷路のようにぐるぐると進んだ先にある。

墓参りに行くたびに、その文句を言っていた。

飛び地なのも気に入らなければ、飛び地の中での位置も気に入らないと言う。



そんなわけで母のお骨はずっと私たちと一緒にいたわけだけれど、その10年後に父が亡くなった時、予定通り父と一緒に埋葬することに、また別の迷いが生じた。

何しろ、結局、私はこのまま結婚しなさそうだし、そうすると我が家のお墓はそこで管理するものがいなくなる。

それなら私が亡くなった後、甥たちに整理してもらうよりは、最近流行のボタンを押せばエレベーターで登場するようなお墓を購入し、最後は永代供養してもらう手続きをさっさと取ってしまった方が良いのではなかろうか。

川口の墓地を購入した父には悪いが、どうせ、母は気にいっていなかったのだし。


それに何しろ、川口には全く良い思い出がない。

お墓参りのたび、川口に行くのはなんとも気が重いし、確か横浜あたりにそんなような墓地があると、宣伝を見たことがあった。



そこで、その旨、妹に相談してみることにした。




妹に話してみると、


「それはちょっと寂しいよ」


と言う。

「それじゃあ、とりあえず川口に埋葬する?

川口のお寺で、前もって永代供養の手続きとか、できるのかどうか分からないけど、一応、聞いてみようか。

あそこ、お母さんが気に入っていなかったから、あんまり気が進まないんだけどね」


「どうせなら、うちと共同で、こっちにお墓を買おうよ」


私は少し驚いた。

義弟は、一応長男だからだ。

ご両親が、ご自分たちのために、千葉の霊園に墓地を用意していると聞いた。

一応、というのは、現在、義弟の弟さんがご両親と同居中だからだけれど、弟さんは独身だし、まぁ、ご両親もまだまだお元気だからあまり考えていないのかもしれないけれど、そちらの墓地の管理も、甥たちに回ってきそうである。



妹は、


「とりあえず私はうちのほうに入る。

旦那は、そうしたければ向こうに入ればいいんじゃない?」


それはどうなの・・・現代の夫婦とはこんなものなのだろうか。

全然相談しないで、そんなことを決めてしまっていいのかなぁ。


けれど、まぁ、甥は2人いるのだし、鎌倉に残った方が鎌倉の墓地の管理をし、東京あたりに出て行った方が千葉の墓地の管理をすれば良いか。

その次がどうなるかは私にはわからないけど、そんな先のことまで私にわかるわけがないのだから、とりあえず次の世代のその先の事は甥たちが考えれば良いでしょう。


そんなわけで、墓地探しが始まった。

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